──はい。──ピヨコちゃん、迎えにきて。──了解です。

 病院へ走ると、よめはんは玄関のベンチに腰かけていた。こころなしか、へなっとしている。車に乗せた。「どうでした」「ポリープをとった。四、五ミリのが三つと、二ミリくらいのがひとつ」「それはよかった。おめでとうさん」「おめでとうなことないねん。もうほんまに、ひどいめにおうたんやから」

 よめはんは九時から三時まで下剤を飲みつづけたが大腸内がきれいにならず、浣腸までしたという。

「それでもあかんねん。看護師さんが便器を見て、まだ濁ってますね、というから、泣きそうになった。ほかの患者さんはとっくに帰って、ハニャコひとりが残された。最後はお医者さんがOKして検査した」

 二十回はトイレに行った、とよめはんはいい、「お尻が痛い。ひりひりする」「肛門が腫れてるんやろ」「きっとね」「見せてみい」「いやや」

 わたしは若いころ痔だったから、よめはんによく座薬を入れてもらったが、その逆は一度もない。

週刊朝日  2020年5月8-15日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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