さて、ウイルスに感染して病気になり、回復したとします。健康に戻ったのですが、免疫システムが整備されるスピードがもっと速ければ発病しなかったわけです。そこで、私たちの体は、どの抗体を大量生産したかを“記憶”して、次のウイルス感染ではいち早く大量生産にかかる仕組みになっています。

 この“記憶”がある状態を「そのウイルスに対して免疫がある」と言います。その結果、「一度かかった感染症には、二度かかることがない」と言われるのです。ただ、時間がたつとその“記憶”が消えてしまうこともあり、数年後に再度かかることもまったくないとは言えません。

 いま流行している新型コロナウイルスも、一度かかっていったん「治った」と診断された人が、再び陽性になるケースが出てきています。ただ、その原因はいくつかの可能性があり、いまのところはわかっていません。

 さて、医療が進歩した現代では、人工的にウイルスの「突起」部分だけを体内に注射したり、問題のない程度だけ少し感染させたりすることで、免疫をつけることが可能です。予防接種として免疫の種に相当する「ワクチン」を接種することは免疫をつける方法であり、ウイルスや細菌などの病原体に応じて、それぞれ開発が進んでいます。

 ところが、ウイルスの増殖時のコピーミスによって、偶然突起部分のかたちが変わりえ、結果的に以前の抗体が効かないような“突然変異”を起こしてしまうことがあります。そうするとインフルエンザの予防接種をしているにもかかわらず、新たな型のインフルエンザにかかり発症する場合があります。しかし、そうした例外的な事態が起きないかぎり、予防接種には大きな感染症対策効果が期待できます。

 この外敵に応じて抗体ができる免疫システムの仕組みを解明したのが、生物学者の利根川進さんです。その業績で1987年、日本人ではじめてのノーベル生理学・医学賞を、単独で受賞したのです。

 その後、利根川さんは脳科学研究に進出し、脳の記憶メカニズムの解明などでも顕著な成果をあげています。コロナウイルスの究明をはじめとした先端的な科学分野に多くの皆さんが挑戦されることを期待しています。

【今回の結論】人間にはウイルスに対抗する免疫システムがある。一度感染したウイルスへの防御体制を覚えておいて、免疫システムの起動が早まるようにしている。