不景気だと言われ続ける日本社会。しかし、東日本大震災などに見舞われた昨年でさえ、実は輸出額は63兆円と、高い国際競争力を維持している。その国際競争力をさらに上げるキーポイントは、感性を磨ける程度の給与増加だと、日本総研主席研究員の藻谷浩介氏は言う。
「日本企業が国際競争力を培ってこられたのは、感性やセンスに長けた、商品にうるさい消費者が国内にいたからだ。味にうるさい消費者が少ないアメリカでは食事もおいしくないように、高度な需要なきところに高度な供給はない。消費者の感性こそが競争力を育てる源泉、と言い換えてもいい」(藻谷氏)
 バブルを経験した中高年の消費者はともかく、給与が少ないため、チープな服や安価な食べ物など安いモノばかりに囲まれる若い世代には感性やセンスを磨く機会が少ない。将来的に感性やセンスの低い消費者が主流になってしまうことになる。そのため、「若い世代に感性を磨ける程度の給与を払うことこそ、長期的に考えて日本企業の利益になる」(藻谷氏)のだ。
「とくに重要なのは、男性の7割程度にとどまっているといわれる女性の給与を上げることだ」(藻谷氏)
 雑誌や洋服、化粧品、食事、旅行、どの市場をみても消費意欲が強く、モノに対する感性が鋭いのは女性とも言える。男女の給与を10対7から7対10に入れ替えるだけでも、消費が増加し確実に景気はよくなると藻谷氏は主張する。
 過剰な生産力を抱える日本にとって、必要なのは良いものを見る目がある消費者が増えることなのかもしれない。

※週刊朝日 2012年5月18日号