過度な治療を避け自然な「がん死」を勧める医者がいる。『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(幻冬舎新書)の著者で内科医の中村仁一氏(72)だ。大往生するための極意を聞いた。
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年を取ってどこかが悪くなるのは当たり前。最近の年寄りは少し勘違いをしているんです。子孫を残す役割を終えて長く生き続けるのは、人間とゴンドウクジラだけ。年寄りが楽に生きるためには、工夫と準備が必要なんです。
病気とのつきあい方や対処も、若い人とは違っていい。人間ドックや検診を積極的に受けて、病気探しをする必要なんてない。3人に1人ががんで死ぬ時代ですが、もしがんが見つかっても、「何もしない」選択肢もあるのです。
私は、介護保険の始まった2000年に民間病院の理事長職を退き、今いる特別養護老人ホームの常勤医になりました。実はここで、点滴も酸素吸入もしない「自然死」を数多く見てきました。だけど、一般の病院では何もしないというのはありえないので、自然死の状態を「見る」機会がないわけです。だから自然死が穏やかであることを知らない。確かに介護保険ができる前は、がんに限らず死にかけたら病院に行く、というのが一般の人にとっても常識でした。でも介護保険などができて、個人が保険料を負担する制度に変わったことで、最期まで老人ホームで、と選択肢が広がった。家族の意識も変わったのです。
一方で、(病院で)生きられるだけは生かしてほしい、と考える家族もおられる。しかし、回復しない体にとっての延命は苦しいものです。「長寿」どころか「長命地獄」になる。
こうしたすれ違いが起きないためにも、老後や死はこうありたいと家族と話すことです。よりよく生きるためには、「死を視野に」考えることが必要です。しかも頭で考えるのではなく、具体的行動を起こすことが大事。
おすすめは棺桶に入ること。目を閉じて今までを振り返り、まあまあいい人生かと肯定できたらしめたもので、次に、今後どう生きるか考える。周囲に感謝できたら最高。人生観に変化が出て、充実したものになります。私は古希の記念に段ボール製棺桶を求め、大晦日と元旦に必ず入っています。 一日一日を悔やまず生きて、気がつけば大往生だといいですね。医者の常識は世間の非常識を昔から言いますし(笑い)、皆さんも年にむやみに抗わず、まずは年のせいだと認めることから始めてみてはどうでしょうか。 ※週刊朝日 2012年5月18日
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