亡くなったドライバーは67歳の男性。運転歴約20年のベテランながら慣れない道を迷走した果ての事故だった。「物流の需要が高まるなかで、しわ寄せがドライバーに押し寄せた結果だった」とみる。
橋本さんは事故現場付近を6回も訪れた。その理由を問うと「踏切に供えられた花が枯れているのを見て、この男性に家族がいたら、まわりの雑草をきれいにするんじゃないかと想像して寂しい気持ちになると同時に、この事故は道路使用者全員が真剣に考えるべき事故だと思ったからです」。
現場に通いつめることで、一方通行や高さ制限の標識がもっと余裕をもって判断できる前方にあればと思うとともに、「もし、迷い込んだ際に警察に誘導の助けを求めていたならば、といろいろ考えてしまいます」。
ドライバーの家族を取材することは考えなかった。「自分自身が彼だったら、そっとしておいてほしいと思う。なにより亡くなった個人の話にしたくなかったこともあります」
工場は13年に廃業した。いまは隣の会社の看板がかかる元工場に案内してもらった。そこで、手を見せてもらうと、細長い利き手の中指が反り返っていた。工場で10年間、手作業で研磨を続けてきた痕跡だ。
「工場を閉めていちばん嬉しかったのは、爪を伸ばしマニキュアができるようになったことです」
(朝山実)
※週刊朝日 2020年5月8-15日号