日本のすばる望遠鏡が今夏から新たな観測を始める。狙うのは見えない物質「暗黒物質」と、見えないエネルギー「暗黒エネルギー」だ。両方で宇宙の96%を占めているにもかかわらず、正体は全く不明。今回の観測で解析を分担する東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(KavliIPMU)の村山斉・機構長(48)に、「暗黒の謎」について聞いた。


*  *  *
「これまでの宇宙物理学によれば、宇宙はビッグバンという巨大爆発によって生まれたとされてきました。これが正しければ、最初の爆発による宇宙の膨張はやがて止まるはず。そう思って測定してみたところ、現在、137億歳とされる宇宙は、70億歳の頃から、再び勢いよく膨張を始めていたことが分かったのです」(村山さん)
 ビッグバンとは、宇宙を生んだ最初の巨大な火の玉のことだ。しかし爆発は遠い昔で、最近の宇宙は次第に膨張が緩やかになっていると考えられてきた。それが逆に膨張を加速しているなら、星々はどんどん散り散りになり、夜空から星が消えて、宇宙は風船がはじけるようになくなってしまうのではないか。
「その可能性があるのです。発見者の一人のソール・パールマター氏はカリフォルニア大学バークレー校で私の近くにいた方です。本人も本当に驚いていました。何かの間違いではないかと何度も計算し直しましたが、間違いではなかったのです」
 そうなると、70億年前に突然、宇宙の膨張を減速から加速に変えた"何か"が働き始めたことになる。
「その"何か"を暗黒エネルギーと呼んでいるのです。そして、かつては、暗黒物質の強い重力が、暗黒エネルギーによる膨張に対抗していました。70億年前に、その両者のバランスが崩れたことで加速膨張が始まった、というのが最近の科学者の見立てなのです」
※週刊朝日 2012年5月4・11日号


週刊朝日

[AERA最新号はこちら]