現在の韓国人のリアルを知りたかったら、チョン・セランの作品がおすすめだ。『保健室のアン・ウニョン先生』はキャラ立ちする愛すべき先生・生徒勢ぞろいの青春ファンタジー。
「社会の問題点にスパッと切り込む、まっすぐさが魅力です」
チョン・ソヨンは「フェミニズムSF作家」と称したい作家で、短編集の『となりのヨンヒさん』は、「こんなSFもあったの?」とワクワクするような一冊。
「切なさと優しさで人々を温かく見つめる物語が多いですが、根底には宇宙と地球を見渡す深い思考が流れています」
日本でかなり知られてきたパク・ミンギュも、SFとの境界線で魅力を放つ作家。
「『ピンポン』は『いじめられている2人の男子中学生が卓球で世界を救えるか?』という、わけの分からない設定ですが、読むと納得させられる。中学校の卓球台がいきなり宇宙につながるこのスケール感、読んで納得していただきたい」
そして、まさに今読むべき一冊といえば、ピョン・ヘヨンの『アオイガーデン』だ。疫病が流行する都市で、室内から出られない市民たちの悪夢を描く。
「悪臭漂う死の都市で孤立した姉弟を描き、グロテスクを極めた世界が奇怪な美しさを放つディストピア小説です」
韓国では「ハリー・ポッター」シリーズの著者、J・K・ローリングのような作家を韓国でも発掘しようという取り組みがある。
コンテンツ産業の発展をサポートする政府機関の「韓国コンテンツ振興院」では「ストーリー産業」の育成に力を入れている。
「ストーリー」とは、小説、映画、ゲームといったコンテンツに落とし込む前の粗筋レベルの原作のこと。振興院は毎年、「大韓民国ストーリー公募大展」を開催し、1位には1億ウォン(約870万円)の賞金を提供。「K-ストーリー」を日本やアメリカなどの海外市場に積極的に紹介もしている。
韓国コンテンツ振興院日本ビジネスセンターの黄仙惠センター長はこう言う。
「あるストーリーが、どのコンテンツに合うかはやってみないと分からない。ストーリーは知的財産でもあります。どのように展開していくかが大事になってくるので、ストーリーという最初の原作状態から支援するのです」
(朝日新聞出版・小柳暁子)
※AERA 2020年5月18日号