一方、「宇高航路」には国鉄(のちにJR)連絡船のほか3社がフェリーを運航していた。段階的に撤退していくなか、最後まで運航を続けていたのが四国フェリーであった。

 一度、連絡船廃止後にこの航路を使ったことがある。岡山から宇野線の普通列車に乗り着いた宇野駅に往時の賑わいはなく、行き止まり式1面2線のホームとそれに続く小ぶりな駅舎が静かに私を迎えてくれた。都市郊外を思わせる広い空が印象に残ったが、駅前広場の彼方(に見えた)はたしかに港湾のたたずまいで、半ばあっけに取られながらも、この先の船旅に心が踊ったのを思い出す。もちろん、高松港までの船旅は格別の味わいがあった。

 伝統的な「宇高航路」は終焉したものの、宇野港はいまも現役。四国汽船が宮浦港(直島)を経由し高松との間を結んでいるほか、小豆島豊島フェリーが土佐港(小豆島)との間に運航され、小豆島経由で高松に渡ることも可能だ。

■辛くも生き存える山あいのジャンクション──芸備線・木次線・備後落合駅

 備後落合(びんごおちあい)という駅がある。中国山地の中央部に位置し、芸備線と木次(きすき)線との接続駅となっている。鉄道の旅において、ジャンクションというのはなにかと存在感を示すものだが、備後落合は私にとってひときわ気になるジャンクションであった。

 なにしろそのダイヤがいい。現行ダイヤを見ると、芸備線の三次(みよし)方面が5往復、同線の新見方面は4往復(うち1往復は期間を定めた「α列車」)、木次線は3往復にすぎない(ほかに観光臨時列車「奥出雲おろち号」)。相当の閑散ぶりを想像させるが、そのことが探訪欲へとつながるのも鉄道好きの性というものであろう。

 実は、一度だけこの駅を訪れたことがある。新見から芸備線の単行気動車に揺られてこの駅にたどり着いたものだ。季節は冬で、ひとつ手前の道後山駅から大きく迂回するように峠を越えた先に雪景色の山里が開けたのが印象に残っている。ちょうど、高山本線で宮峠を越えて高山の町を望むのと似た印象を抱いたように思う。

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駅前には商店どころか民家もなく人の気配なし