それから、絵本には色んなキャラクターが出てきます。

 キャラクターごとに声色を変えるのには、最初こそ恥ずかしさがありましたが、そこに関しては殻を破ったと言いますか、乗り越えたと言いますか、まあ、慣れました。

 慣れてくればもう段々と楽しくなってきまして、悪者をより悪者らしく。狼は狼らしく、子豚さんは子豚さんらしく、お母さん豚はお母さんらしく、これは本業の役作りにも通ずるものがあると思ってアグレッシブにイメージを膨らませてチャレンジするようになりました。

 チビも楽しそうに聞いてくれるのでこちらもやる気が出ます。

 もしかして、全国読み聞かせ選手権なんていうものがあったら、けっこう上位に食い込めるんじゃないか、なんて自負までありました。

 それが先日、これまたハードルの高い本を引っ張り出してしまいました。

「ちっちゃなおさかなちゃん」という絵本です。

 ちっちゃなおさかなちゃんが一匹、海の中でママとはぐれて迷子になり、ママを探すというお話です。

 色んな海の生き物に「ママはどこ?」と聞いて回るんです。

 ページをめくるたびに新たな生き物が出てくるんです。

 少しずつ声色を変えながら必死に読むのですが、全くうまくいかず、読み終わると落ち込みます。

 出てくるのはカニ、ヒトデ、グルリンコという謎の生物、カメ、クジラ、タコ。

 みんな、概ね「ママはあっちよ」と言うだけで、特にキャラクターがないんです。

 年齢も性別もキャラクターもないんです。声色の手がかりがないんです。

 カニらしさって何ですか? ヒトデらしさって何ですか? キャラクターがつかめない。グルリンコって何だ。

 この6種のキャラクターに「これだ」という声をあてられた時、私は母として役者として一つステージが上がる気がしているのです。

「まんまるパン」は一旦、本棚の奥深くにしまい込みました。

 親にも優しい絵本を集めていきたいと思う今日この頃です。

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