政府・与党が今国会成立を断念した検察庁法改正案。普段は政治的な発言を控えるような芸能人までもこの法案についてはツイッターなどで反対を表明していた。ジャーナリストの田原総一朗氏も「無神経さが理解できない」と安倍内閣を批判する。
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検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案をめぐり、5月13日の衆院内閣委員会に、なぜか同法を所管する森雅子法相は出席せず、専門外の武田良太国家公務員制度担当相が答弁に立ったのだが、野党の質問に何度も窮して、審議はたびたび中断した。そして野党は途中で席を立ってしまった。
武田氏は野党の質問に対して、「本来ならば法務省からお答えすべきこと」「法務省の職員ではないので具体的に言えない」などの、しどろもどろの答弁を連発し、最後は「法務省に聞いてもらったほうが詳しい」などと、森法相の答弁の必要性を認めるような発言までしているのである。
それでは、政府はなぜ担当相である森法相の出席を拒んでいるのか。
改正案の最大の問題は、政府が「公務の運営に著しい支障が生ずる」と判断すれば、検事総長らが定年後も最長3年間職にとどまることができる特例規定を設けたことだ。この規定は、法務省が昨年秋に作成した原案にはなかったのである。
そこで、どうしても出さざるを得ないのが、政府が今年1月に、定年間近だった黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことだ。安倍首相と仲の良い黒川氏に検事総長への道を開くための脱法的なやり方だと激しい批判を受けた。
政府は1月31日に、黒川氏の定年延長について、国家公務員法に基づく決定だと説明していた。
ところが、実は1981年に当時の人事院幹部が、検察官には国家公務員法の定年延長は適用されないとの見解を国会で示していたのである。
ということは、黒川氏の定年延長はあきらかに違法である。
それに対して森法相は、法務省幹部たちとの話し合いで、内閣法制局、人事院が了承した、と説明したが、実はそんな話し合いの記録は残っていないことが判明した。