「横並び」意識の強い公立校において、オンライン教育の進みは遅い。だが、休校中でも学びを止めてはいけないと、情報機器やネットを活用して奮闘する教師もいる。AERA 2020年5月25日号から。
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新型コロナウイルスの感染拡大で長期休校が続くなか、何とかして子どもたちとつながりたい──。そんな熱を持った先生たちが4月30日夜8時、パソコンの前に集まっていた。
「双方向型オンライン」授業を軌道に乗せた米ニューヨーク育英学園の教員らを講師に招いた無料のオンラインセミナー。全国の国公私立校に加え、イタリアや台湾など海外の日本人学校の教師らも駆けつけた。国や自治体の職員までも交え、画面越しに語り合う「海を越えた夜の職員会議」となった。
「授業中はミュート(消音機能)を切るんですか?」
「うちはそのままにしてる」
「おしゃべり、しません?」
「意外と子どもは集中してる」
出てきた話題に関する感想や質問を、各々実名でチャットに書き込んでいく。オンライン授業を開始したという報告は、私立小学校、海外の日本人学校の教員からが多かった。だが、日本の小学校の99%を占めるのは公立校だ。
公立小学校で「双方向型」が普及しづらいのは、教育現場においてネット環境が整備されていないことが一因だろう。2018年にOECD(経済協力開発機構)が15歳児を対象に行った調査で、日本の学校の授業(国語、数学、理科)におけるデジタル機器の利用時間は、OECD加盟国中最下位だった。
停滞した状況を打破しようと動いたのが、東京都調布市内の小学校で教鞭をとる庄子寛之さん(36)だ。ICT(情報通信技術)に詳しいわけでもなく、Zoom(テレビ会議システム)を扱ったことさえなかったのに、SNS上で「オンライン授業を通してこれからの教育を考えようプロジェクト」を4月頭に結成。冒頭のセミナーを企画した。
4回目のこの日、約400人が参加。わずか2週間で参加者数はたった2人から延べ800人になった。次第に「校長に訴えたら検討することになった」などのうれしい報告を受けるようになった。庄子さんは「子どもを孤独にさせてはいけない。一人の教師の勇気が子どもを救うことになる」と手応えを感じている。