また、産業用の用途も鳴かず飛ばずだ。5Gを生かすまでに関連技術が発展しておらず、規制緩和というハードルも高い。政府や携帯電話事業者は5Gの低遅延という特長を生かして、自動運転や遠隔手術、オンライン診療などの実現に期待を込める。しかし、携帯電話事業者関係者は「遠隔手術や遠隔操縦する工場の機器などは、未開発の技術が多い」と述べる。

 そして、5Gが無用の長物となりつつある最大の理由が、ほとんどの用途が固定の光回線で代替できることだ。コロナ禍で注目が集まる在宅勤務やオンライン診療も、5Gよりも固定の光回線を使った方が明らかに安定性が高い。

 海外では、コロナ禍が直接的に逆風になった例もある。英国では3月末から5月にかけて、5Gの基地局を狙った放火事件や基地局を設置する会社の作業員が暴行を受ける被害が相次いで発生した。ネット上で急速に広まった「5Gがコロナの原因」という陰謀論を信じた人が事件を起こしたとみられる。

 総務省は「電波ががんやその他の健康に対して悪影響を及ぼすとの根拠は見つかっていません」との立場。だが一部の専門家が、5Gで利用される高い周波数帯の電波が健康に影響を及ぼす可能性を懸念しているのは事実だ。新型コロナへの不安にかられた一部の人々が5Gを標的にした形だが、今後、日本政府も5Gの健康への影響を正式に評価して不安を払拭する必要がありそうだ。

 マイナス面が目立つ5Gだが、現時点で特長を最も生かせるとされるのが、ドコモが力を入れる格闘ゲームのオンライン対戦だ。60分の1秒単位で勝敗が決まる世界で、遅延の少なさは極めて重要だという。5Gの将来性を否定するわけではないが、今は「そこに3兆円をかけるなら携帯電話料金を下げてくれ」と考えるのは筆者だけだろうか。(ライター・平土令)

AERA 2020年5月25日号

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