稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
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美しい新緑の季節! そこらに生えてるドクダミもこの通り。大騒ぎしてるのは人間だけだな……(写真:本人提供)
美しい新緑の季節! そこらに生えてるドクダミもこの通り。大騒ぎしてるのは人間だけだな……(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 我が家はテレビがないので基本情報源はラジオと新聞。まるで戦前みたいだが最近、これって実は最先端のやり方なんじゃと自画自賛中である。コロナのせいだ。

 何しろテレビがないとそれだけで誠に平和。最新情報は朝夕の短いラジオニュースで案外十分だ。その他の情報が欲しければ新聞で補う。補えない時は疑問として残しておく。思考の種と思えば良い。

 この方法がいいのは、ラジオも新聞も淡泊な情報源なので、恐怖や怒りや焦りに囚われずに済むことだ。情報は多ければ良いわけではない。むしろ多いほど訳が分からなくなり、結局はさらに情報を集める羽目になりさらに心がザワつく……なんて、やってもいないのに何故わかるのかというと、昨今「うちはテレビがないから」と言うと、若者からジジババまで「絶対そのほうがいい!」と皆口を揃えるのだ。「ネットも情報が多すぎて何が本当かわからない」と続ける人も多い(実は私もネットは少々見てますが)。そうかそうかハッハッハ、参ったかと一人優越感に浸る。

 ところでラジオを聴く人は周波数を変えない人が多く、要するに同じ局を延々と聴く。ちなみに私はアレコレ試したあげくNHK-FM派となった。理由を一言で言えば最もマニアックで過激で偏愛に満ちていたからである。

 この春、大好きだった二つの番組が終わってしまった。うち一つは、1年かけてマイケル・ジャクソンの足跡を振り返るという意表をついたもので、制作者のマイケル愛に圧倒された。私はマイケル世代だが、超スーパースター故に次第に世間に持て余され、最後はワイドショーネタと化していく残酷な過程を漫然と傍観していた。だがそんな空気の中でも愛と尊敬を持ちマイケルの真実を曇りなく見てきた人がいたのだ。その目を通して我らリスナーはマイケルを再発見し、その人生を思い、我がことのように悼んだ。

 空気に流されず何かをまっすぐに見つめる。その原動力は愛なんだということは、今この時を右往左往している私を今も力づけてくれている。

AERA 2020年5月25日号