

コロナ禍で予定されていたコンサート・ツアーやイベントが延期・中止になる中、国内外のミュージシャンたちは思い思いに「今できること」に着手している。
弾き語りなどの生演奏をインターネットで配信したり、自宅録音の作品を「サウンドクラウド」のような音楽共有サービスを利用して公開したりと、家でできることをコツコツ続けている。海外ではそれらの売り上げを医療従事者らに寄付する動きが活発だ。中には過去のライブ映像のアーカイブを公開販売し、その売り上げを仕事がなくなったツアー・クルー(スタッフ)に寄付しようと試みるバンドもある。
日本国内でも夏フェスなどが次々と中止になる中で、ビッグネームもインディー・アーティストも音楽家たちがとるアクションは様々。ただ共通するのは、まだまだもがき苦しみ、模索しながら、それでもなんとかやれることをやろうとしているということ。その行動力こそが今、尊い。
20年以上にわたり第一線で活躍する3ピース・バンドの「くるり」の場合は急きょ、アルバムをリリースするという英断を下した。タイトルは『thaw』。4月に既にデジタルで11曲の配信が開始されているが、5月27日に発売されるCDにはこれに追加して全15曲が収録されている。
「くるり」のメイン・ソングライターでボーカリスト/ギタリストの岸田繁によると、コロナ禍でツアーが中止になった後、すぐにこのアルバムの制作に入り、構想からわずか3週間でマスタリングまで終えたのだという。今作はこれまでの作品の中から未発表曲やオリジナル・アルバム未収録曲などを集めた企画盤。録音時期もマチマチだし、録音メンバーも異なる。
メジャー・デビュー直前の1998年に録音された曲もあれば、岸田繁と交流のある又吉直樹が出演するNHK・Eテレの人気教養バラエティー番組『又吉直樹のヘウレーカ!』の主題歌(2018年)など近年おなじみの曲もある。いわば、約20年間の彼らの軌跡をちょっと違うアングルからたどれるバンド史作品になっている。