「例えば、2014年に西アフリカで流行したエボラ出血熱のワクチンが承認されたのは昨年。5年を要していますが、それでも早いほうです。1年半という数字も開発までの楽観的なシナリオ。実際に製造され世界中にワクチンがいきわたるのはそのずっと先です」(村中氏)

 開発スピードが速い理由は、ウイルスの遺伝子がすでに公開されていることも大きい。ワクチンの臨床研究に詳しい日本ワクチン学会理事長の岡田賢司氏(医学博士)が言う。

「新型コロナウイルスが見つかったのは昨年12月ですが、今年の1月には中国が遺伝子配列を公開しています。どんな遺伝子を持つウイルスなのかがいち早くわかったことで、ワクチンの開発に向けて弾みがついたのです」

 ワクチンのタイプには、現在6種類ほどある。ウイルスを弱毒化した生ワクチンや感染能力を失わせた不活化ワクチンなど従来型に加え、注目されているのがDNAワクチンとRNAワクチンの種類を持つ核酸ワクチンだ。

「ウイルスにはスパイクと呼ばれるたんぱく質の部分があり、それが人の細胞の受容体にくっつくことで感染します。核酸ワクチンでは、ウイルスのなかのスパイクたんぱくの情報がある遺伝子だけを人に注射する。すると体が反応して、スパイクたんぱくを作りだす。人の免疫は、そのスパイクを異物と判断して、抗体ができる仕組みです。ウイルスを増やす必要がないため、従来型のワクチンより早く開発できるなどの特徴があります」(岡田氏)

 ワクチンに使うスパイクは、遺伝子配列がわかっているのでウイルスから取り出さなくても人工的に作れる。スパイクだけなら無害だ。それをプラスミドと呼ばれるDNA分子に付けたものをワクチンとして使う。

 大阪大学とバイオベンチャーのアンジェスなどが開発を進めているのも核酸ワクチンの一つ、DNAワクチンだ。3月に開発をスタートさせ、現在は動物実験中。順調にいけば、7月にも人への治験が始まる。

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