「アビガン」は新型インフル用の備蓄薬だった(写真:富士フイルム提供)
「アビガン」は新型インフル用の備蓄薬だった(写真:富士フイルム提供)
AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より

 ワクチン開発までに時間がかかるなか、期待されるのが治療薬だ。日本の企業が開発した治療薬が次々と臨床試験などに入っている。AERA 2020年6月1日号では、それぞれの特徴を紹介する。

【コロナ治療に期待される治療薬はこちら!】

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 注目の治療薬の中には、日本の製薬会社が開発したものもある。

 脚本家の宮藤官九郎さんや俳優の石田純一さんらが治療を受けたという報道で一般にも名が知られる「アビガン」は、富山化学工業(現・富士フイルム富山化学)が開発し、新型インフルエンザの治療薬として2014年に承認された。

 新型コロナでは、医師の裁量による「観察研究」の枠組みで藤田医科大学(愛知県)などが国内で3千人近くに処方したとされる。346人を対象とした成果では、投与開始7日後で軽症や中等症の約7割、重症の約4割の患者で症状の改善がみられたという。ただし、RCTの臨床試験は、同社が約100人の患者を対象に実施中で、結果はまだ出ていない。

 アビガンには胎児に重い副作用が出る可能性が指摘されている。新型インフルエンザの承認時には妊婦に投与しないなどの条件が付けられ、タミフルなどの既存薬が効かない新型インフルが流行し、政府が要請したときだけ処方できる備蓄薬の扱いだ。また、新型コロナの治療には、1人当たり新型インフルの際の3倍の量の投与が必要で、副作用の見極めが欠かせないとされる。

 中外製薬が開発した「アクテムラ」(一般名トシリズマブ)も注目される薬の一つ。アビガンがウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス剤」であるのに対し、これは免疫の暴走を抑える仕組みを持つ医薬品。国内では05年から販売を開始。これまでに関節リウマチなど八つの疾病に対する承認を取得済みであり、110カ国以上で広く使われている点も異なる。重症のコロナ肺炎への適用について親会社ロシュが米国などでの臨床試験を開始、中外製薬も国内での臨床試験の準備を整え、「年内の承認を目指す」としている。

「ストロメクトール」(一般名イベルメクチン)の国内臨床試験も近く始まる。15年にノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智・北里大特別栄誉教授の研究成果をもとに開発された抗寄生虫薬で、家畜動物の寄生虫駆除のほか、アフリカや中南米などの熱帯地域などで患者が多い河川盲目症(オンコセルカ症)の治療に使われてきた。オーストラリアの研究チームが新型コロナの増殖抑制効果を実験で確認、米ユタ大学は約1400人の患者に投与し、死亡率が約6分の1に下がったと報告した。北里大が5月に臨床試験開始の方針を明らかにしている。

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