


3月以降、伝統芸能においてもほとんどの公演が中止になった。伝統の灯を絶やさぬため、アルバイト、動画制作、インスタライブなど新たな挑戦をしながら、再開のときを待っている。AERA 2020年6月1日号の記事を紹介する。
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コロナ禍は、数百年続く伝統芸能にも影を落としている。
人形浄瑠璃「文楽」では3月以降、全ての舞台が中止になった。文楽の技芸員は毎年4月、マネジメントの文楽協会を通して国立の劇場と契約するが、公演が決まらないという前代未聞の事態に、今年は契約が遅れている。先行き不透明な中、人形遣い、吉田簑紫郎(みのしろう)さん(45)は深夜の物流センターの冷凍倉庫で運搬のアルバイトを始めた。中学卒業後30年間、文楽一筋。初めてのアルバイトだ。
「何もしないのが一番不安。人形を遣うのも身体が資本なので、敢えて肉体労働を選びました」
3人で1体の人形を屋内で遣う「3密」の仕事ゆえ稽古はできない。芸の継承が滞る状況に焦りはあるが、アルバイトでの発見もあると簑紫郎さんは言う。
「物流センターでは年下の“先輩”が優しく教えてくれる。文楽は『見て盗め』と突き放す世界ですが、今後、後輩への接し方の参考になりそうです。家では昔の映像を見返し、先々の企画を立てて復帰に備えています」
日本舞踊「宗家藤間(そうけふじま)流」の宗家、藤間勘十郎(かんじゅうろう)さん(40)は4月、舞踊2作を振り付けた四月大歌舞伎や、自身が演出し市川海老蔵さん(42)とオペラ歌手が共演する舞台「光の王」の中止を最後に、仕事が途絶えている。
「4月は上演の当てもない舞踊作品を8作つくり、作曲や録音まで済ませました。多忙な日々から一転、踊りへの情熱を持っていろいろと構想を練っていた高校時代に戻った気分です」
現在は、自らの舞踊の映像を解説付きで載せる動画チャンネルを開設し、週1回更新。告知を兼ねて毎週行うインスタライブに加え、自身の考えや創作の裏側を見せる新たな動画チャンネル「宗家の時間」も準備中だ。