ほくろやしみのような見かけの皮膚がん。皮膚がんの5年生存率は90%以上と高い水準にあるが、顔にできたがんが進行すると、見た目の面での問題が生じる。また、がんとは思わずに見過ごしていて、気づいたときにはほかの臓器に転移していたというケースもある。専門医に、注意すべき皮膚の変化や治療法を取材した。
【データ】男女差はない!皮膚がんの症状やかかりやすい年代は?
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皮膚は広げると約1・6平方メートルになる、からだのなかで最大の器官だ。バリア機能、水分保持機能、老廃物の排泄機能、汗による体温調節機能、感覚器としての機能など、多くの働きをもつ。
皮膚は表面から、表皮、真皮、皮下組織などによって構成されている。
皮膚に発生するがんで最も多いのが、表皮にできるがんだ。皮膚がん全体の約80%を占める。ここでは、そのうち、日本人に多くみられる基底細胞がん、有棘細胞がん、メラノーマ(悪性黒色腫)について述べる。
表皮の厚さは0・1~0・2ミリ。そのなかにある基底細胞ががん化するのが基底細胞がん、有棘細胞ががん化するのが有棘細胞がん、メラノサイトががん化するのがメラノーマだ。
いずれも、多くは黒・赤・褐色のほくろやしみのような外観で、痛みやかゆみはない。進行するとこぶのようになったり、潰瘍のようになって出血したりするものもあるが、初期には外観の変化以外に症状がないことがほとんどだ。
また、がんの発生に紫外線が関与しているものが一定数ある。基底細胞がんと有棘細胞がんは、紫外線を浴びやすい顔、頸、頭皮に多くみられる。一方メラノーマは紫外線が当たる背中などの体幹や手足にもできるが、日本人は足の裏や手のひら、爪にできやすく、紫外線の関与がそれほど大きくないのが特徴だ。
神戸大学病院皮膚科診療科長・教授の錦織千佳子医師は次のように話す。
「白人のメラノーマは、紫外線が原因となる体幹や大腿、下腿などに生じるものが圧倒的に多く、足の裏に生じる例は比率としては少なくなります。これには人種の違いが関係しています。しかし近年はバカンスで日光浴を楽しむ人が増えるなど、生活の欧米化に伴って、日本人でも体幹にメラノーマができる人が増え、日本人のメラノーマへの紫外線の関与も約3割程度と、増加傾向にあります」