お笑いコンビ、ペナルティのワッキー(本名・脇田寧人<わきた・やすひと>)さん(47)が、公表した中咽頭(いんとう)がん。ステージ1で、外科手術はせずに放射線化学療法を受ける方針という。中咽頭がんは、咽頭部にできるがんで、口腔がんや喉頭がんなどと合わせて頭頸部がんと呼ばれる。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、頭頸部がんの治療の最新動向と放射線治療の治療成績について、専門医に取材している。その一部を紹介する。
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頭頸部がんとは、脳の下から鎖骨の上までの範囲にできたがんのうち、脊髄と眼を除くものの総称で、口腔がん、咽頭がん、喉頭がんなど多くの種類がある。頭頸部がん治療の近年の動向として、埼玉県立がんセンターの別府武医師は「QOL(生活の質)維持と低侵襲化」を挙げる。
「早期の中咽頭がんや下咽頭がん、喉頭がんなどでは、外からのどを切開するのではなく、口から器具を挿入する経口的切除が積極的におこなわれるようになり、なるべく小さな切除で機能温存を図りつつ、根治とQOL維持を目指します」
頭頸部には、嚥下や咀嚼、発声など生きるうえで重要な機能や、嗅覚、味覚などの感覚器が多いため、機能温存を重視し、拡大手術から放射線へと治療の主体が移っていたが、北里大学病院の山下拓医師は「最近その動向に変化がみられる」と話す。
「頭頸部がんに対しておこなわれる放射線治療でも、嚥下障害などの副作用が少なからずみられることがわかってきました。また治療後に同じ臓器や別の臓器にがんが発生した場合、同じ部位に再度放射線を使うことができない問題もあり、先行治療として手術が見直されています。とくに経口的に摘出する手術は侵襲が少なく、術後の嚥下機能なども良好で実施する病院が増えています」
放射線治療では、がんに集中して照射することで正常組織への影響が少ない「強度変調放射線治療(IMRT)」が標準治療となり、口腔乾燥や味覚障害などの副作用が低減されている。また、粒子線治療が頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)に対し2018年から保険適用となった。
薬物療法も進歩しており、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」が17年から頭頸部がんにも使用できるようになった。
「現在は、再発がんで従来の抗がん剤が効かない患者さんが適応ですが、将来的には根治のための術前投与や放射線との併用など、治療法が広がることが期待されています」(別府医師)
近畿大学病院の西村恭昌医師はこう話す。
「頭頸部には、話す、食べる、見るといった重要な機能が詰まっています。手術でがんを取ると、同時に機能も失われるのでQOL(生活の質)が低下しますが、放射線なら機能を保ったまま治せます」(西村医師)
形態が残せる点も重要だ。手術では顔やその周辺にメスを入れる。顔の形が変わったり、そこに傷が残ったりする精神的苦痛は計り知れない。見た目を変えない放射線治療は、とくに頭頸部で大きなメリットになる。
治療成績も悪くなかったので、この領域では比較的早くから放射線治療のよさが知られていた。現在、進行頭頸部がんで放射線治療は標準治療になっている。