そこで注目されているのが「iPS細胞を使った軟骨移植」の研究である。20年1月、京都大学病院のひざの軟骨損傷を対象にした臨床研究計画が承認された。

 具体的には京都大学iPS細胞研究所が、患者ではない他人から採取した血液でiPS細胞をつくり、分化誘導して、まず軟骨細胞にする。さらに培養して直径2~3ミリの粒状の軟骨組織をつくる。これを京都大学病院で患者の損傷部に移植する流れだ(イラスト参照)。損傷部の大きさに応じて必要な数を詰め、それが落ちないようにかさぶたができる血液製剤(フィブリン糊)でとめて移植完了となる。軟骨組織1個には約100万個の細胞が入っていて、最多で150個ほど移植する。

 京都大学iPS細胞研究所の代表研究者である妻木範行医師は次のように話す。

「軟骨細胞は自分の周りに、クッション性と滑らかさという性質を担う細胞外マトリックスをつくり、軟骨のかたまり、つまり軟骨組織になります。損傷した軟骨が簡単に治らない理由は、細胞外マトリックスが失われるからです。軟骨細胞の時点では90%以上が水分で簡単につぶれますが、軟骨組織になると軟骨の機能をもちます。移植すると、軟骨組織の粒と粒が1~2カ月かけて合体し、患者さんの軟骨組織とも結びつきます」

 この方法のメリットは三つある。一つ目が、既にあるiPS細胞を使って軟骨組織にするまでは3~4カ月かかるものの、定期的につくっておくことで必要なときにすぐに利用できること。二つ目が、均一で大量の軟骨組織を体外でつくれること。三つ目が、線維軟骨よりも質のいい硝子軟骨になり根治を目指す手法であることだ。

■2020年中に1例目の実施を計画

 京都大学iPS細胞研究所は現在、1例目を20年の年末におこなう計画で準備を進めている。京都大学病院で治療を受けている中等度から重度の患者で、かつ20~70歳、軟骨の損傷面積が1~5平方センチの範囲内などの基準に合致した4人が対象となる。移植後1年間、安全性や有効性を確認し、軟骨の再生や修復具合を評価する。

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