キッズラインは、6月4日に「弊社の取り組みに関して」として同社のHPで男性シッターの募集・活動停止するという措置を公表しました。事件発生から6カ月以上たって講じた具体的な対策が、「男性シッターの排除」だったことには驚きました。

 HPには「国や自治体との性犯罪データベースの共有が実現することや、安全性に関する十分な仕組みが構築されるまで、また、専門家から性犯罪が男性により発生する傾向が高いことを指摘されたことなどを鑑み、男性サポーターのサポート(家事代行を除く)を一時停止することといたしました」と記載されています。つまり、男性は女性に比べて性犯罪の性向が強いので、シッター業務からは排除したということです。

 これは、典型的な統計的差別です。ある集団に関する特徴を個人に当てはめることを統計的差別といいます。たとえば、統計的に女性は結婚介護で離職する確率が高いという事実をもって、就職面接に来た女性のAさんに対して「この人もすぐに辞めるだろう」と推測して採用をしない、というのは女性にずっと行われてきた統計的差別です。Aさんが結婚や介護についてどう考えているのか、どういう働き方を望んでいるのかを個別に判断するのは時間やコストがかかる。そのコストを省くために統計的に差別して女性を排除するという論理です。キッズラインが男性シッターに行ったことはこれとまったく同じです。男性シッター個々人の適正を時間やお金をかけて見極めるコストはかけられないと判断したのでしょう。それゆえ、すべての男性を排除するという「対策」をしたのだと思います。

 私は過去に不祥事を起こしたり、法務上の問題を起こした企業の経営者や上級管理職に取材やコンサルティング業務で多くの話を聞いてきましたが、通常はこうした対応はしません。

 自社の製品、サービスに不具合が見つかり、消費者に危険があることが判明した場合、多くの企業は検査体制の強化といった対策を取ります。これは、企業にとって“コスト高”につながる対応ですが、短期的な利益を削っても、社会的責任を果たすことで長期的に信頼回復する、という判断を多くの経営者がします。

 事件発覚後、キッズラインはこのように自社の利益を削ってでも、子どもの安全を守るような施策を取ったのでしょうか。多くの利用者は経営陣が自ら説明することを求めているのではないでしょうか。

次のページ
子どもを守るには親も「コスト」をかけるべき