木村花さんの件についても、これらの指摘は当てはまるように思える。テレビ番組や動画配信と共鳴するように、ネガティブな意見は膨れ上がり、バッシングがバッシングを呼び込むように増えていった。この集中攻撃は木村さんが命を絶つまで止むことはなかった。

「最近、こうした誹謗中傷の事例が増えているのは、コロナ禍で家にいることが増えて、ネットを使用する時間が増えていることが一因でしょう。検察庁法改正案に対する抗議のように、ポジティブな方向に働くこともあれば、今回の木村さんのように、バッシングといったネガティブな方面に働くこともある」(津田さん)

 オンラインメディア「BuzzFeed Japan」創刊時の編集長で、現・メディアコラボ代表の古田大輔さんは「ネットに書き込まれている意見イコール世論ではない」と強調する。

「ある意見を書き込みやすい状況ができると、その意見を持つ人が集中的に書き込み、そうではない人が書き込まないだけであることが多いのです。ユニフォーム事件でバッシングが集中していたのは、実際に木村さんに対して否定的な意見を持つ人が世の中の多勢を占めていたわけではなく、彼女に好意的な意見を持つ人があまり書き込んでいなかっただけ。逆に、木村さんが亡くなった後に追悼コメントが集中したのは、追悼の言葉を書き込む時期だからであり、そのタイミングで批判する人は少なくなります」

 この雰囲気は、「亡くなる」「不起訴になる」「民事裁判に勝訴する」「提訴する」といった「出来事」によって醸成されるという。

「書き込むってパワーが要ることです。自分が書きたい意見にとって逆風のような雰囲気があると、それに逆らってまで書く人は少なくなります」

 ネット上でも現実世界と同じように空気を読んで行動しているということだろうか。

 伊藤さんや木村花さんの事例とは異なるが、例えば東京五輪の大会エンブレムをコロナウイルスの形に見立てた表紙が取り下げられた騒動についても、いわゆる「世論調査」をしたらまた別の結果になったのではないか、と古田さんはみている。

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少数の極端な意見が「世論」になってしまうネット