脳の血管に血のかたまりが詰まる脳梗塞。もっとも重症度の高い心原性脳塞栓の新薬が、約50年ぶりに登場するなど、治療の現場は日々変化している。

 進歩する脳卒中の薬物治療の現状を、脳卒中の多施設共同研究「SAMURAI」を主宰する国立循環器病研究センター脳血管内科部長の豊田一則医師に聞いた。

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 脳梗塞の急性期の治療の大半は、薬などによる内科的な治療です。現場では、脳血管を詰まらせた血栓を溶かす薬、血栓をつくるのを予防する薬、脳梗塞で脳神経が壊れることによって生じる脳浮腫を防ぐ脳保護薬などが、病状に応じて用いられます。

 脳血管に詰まらせた血栓を強力に溶かすのが、点滴薬のt--PA(アルテプラーゼ)です。05年に承認された後、目立った治療効果をあげています。

 脳梗塞は時間がたつと、患部に二次的な脳出血を起こす危険性が高まるため、t-PAを発症から3時間以内に投与するように決まっています。ただ、最近の海外の臨床試験では、投与開始時間を4時間半までに延ばしても治療効果がよいことがわかり、欧米やオーストラリアではすでに時間が延長されています。わが国でも現在、厚生労働省と日本脳卒中学会とで、この「4時間半」が日本人にも適切か話し合われています。

※週刊朝日 2012年3月30日号