帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
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腸内細菌の研究に尽力した光岡知足先生 (c)朝日新聞社
腸内細菌の研究に尽力した光岡知足先生 (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「人と細菌の関係」について。

【写真】腸内細菌の研究に尽力した光岡知足先生

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【ポイント】
(1)体の細胞1個につき微生物の細胞が9個いる
(2)微生物とヒトの遺伝子が一緒に体を動かす
(3)菌たちと賢くつきあっていく知恵が必要

 コロナ騒ぎを経験して、ウイルスや細菌は“人類の敵だ”という思いを強くした人が多いのではないでしょうか。外出時にはマスクを欠かさずつけて、毎日、手をアルコールで消毒していたら、そういう気持ちになっても不思議ではありません。ところが、本当はそうとは言えないところがあるのです。

『あなたの体は9割が細菌』(アランナ・コリン著、矢野真千子訳、河出書房新社)という本にこう書かれています。

「あなたという存在には、血と肉と筋肉と骨、脳と皮膚だけでなく、細菌と菌類が含まれている。あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものでもあるのだ。微生物は腸管内だけで100兆個存在し、海のサンゴ礁のように生態系を作っている。およそ4000種の微生物がそれぞれの小さなニッチを開拓し、長さ1・5メートルの大腸表面を覆う襞に隠れるように暮らしている」

 この本によると、自分の体の細胞1個につき微生物の細胞9個が乗っかっているのだといいます。つまり、「あなたの体のうち、ヒトの部分は10%しかない」(同書)というわけです。

 ヒトのDNAの遺伝情報を解明しようという「ヒトゲノム・プロジェクト」が進められ、その結果、ヒト遺伝子は2万1千個程度であることがわかってきています。ところが、人の体にすむ微生物全体の遺伝子の総数は440万個になるというのです(同書)。この遺伝子の集合体をマイクロバイオームといいます。

 ヒトゲノム・プロジェクトに続いて、この微生物全体の遺伝情報を調べる「ヒトマイクロバイオーム・プロジェクト」が始まりました。というのも、マイクロバイオームが様々な疾患に関わっていることがわかってきているからです。不眠症、うつ病、パーキンソン病、動脈硬化、糖尿病、リウマチ、アトピー性皮膚炎などです。つまり微生物の440万個の遺伝子は、2万1千個のヒト遺伝子と一緒になって、私たちの体を動かしているのです。

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