歯周病は糖尿病、心筋梗塞、認知症など、全身の健康とも大きくかかわっていることが分かってきています。そのキーワードは歯周病による「慢性炎症」と考えられています。日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会による公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』では、歯周病が全身の健康に悪影響に及ぼすメカニズムを解説しています。ここでは「慢性腎臓病(CKD)」を抜粋して届けします。

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 腎臓は毛細血管からできている糸球体の集まりで、血液中の老廃物を除去するとともに、からだに必要な成分を残す役割をしています。この機能が少しずつ低下していく病気の総称が慢性腎臓病(CKD)です。人工透析の原因疾患の一位で、患者は全国に1300万人以上いると推計され、新たな「国民病」といわれています。慢性腎臓病と関連が深いのは循環器疾患と、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病です。

 慢性腎臓病があると歯周病が発症、重症化しやすくなることがわかってきました。例えばイギリスの疫学的研究では、慢性腎臓病患者の歯周病罹患率が健常者と比較して有意に高いことが報告されています。

 また、日本人の高齢者を対象にした疫学研究では歯周病の重症度と腎臓の機能低下がかかわっていることが報告され、逆に歯周病が慢性腎臓病を悪化させる可能性が示されています。つまり、慢性腎臓病も糖尿病などと同じように歯周病と双方向に影響しあうのです。

 慢性腎臓病が歯周病を悪化させる理由は、腎臓が産生するエリスロポエチンというホルモンです。エリスロポエチンは赤血球を作る働きを促進しており、慢性腎臓病が進行するとこのホルモンが十分に産生されなくなりからだは貧血状態となります。

 その結果、各組織の酸素や栄養不足から免疫力の低下が起こり、さまざまな病原菌やウイルスなどに感染しやすくなります。また、エリスロポエチンは骨を作るカルシウムの代謝にも深くかかわっており、このホルモンが不足すると骨代謝がうまくいかなくなり、歯周病により減っている歯槽骨をさらに破壊させるリスクになってしまうのです。

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歯周病の予防と治療で病気のリスクを減らせる