厚労省のアプリはどうか。制度設計に関わった新型コロナウイルス感染症対策テックチームの「接触確認アプリに関する有識者検討会合」に参加する藤田卓仙(たかのり)さん(40)は言う。

「今回の開発では、プライバシーに踏み込まないということを最も重視してきました」

 有識者会合の中でも、どこまでの情報を取るべきかが争点となった。プライバシーをないがしろにすると利用者の同意を得られず、アプリは普及しない。検討を重ね、「これでもか」というほど個人情報を保護するアプリが誕生した。

 その背景には開発に力を貸した企業のプライバシー意識の高さもある。

 IT業界の両雄、グーグルとアップルは4月、ウイルスとの接触者を検出するために相互で協力しあうと声明を発表。今回のアプリはこの2大プラットフォーマーが共同開発したAPI(共有されているソフトウェア)を利用している。アップルといえば、FBIからのパスコード解除要請を拒否するなどユーザーのプライバシー保護を徹底する企業としても有名だ。

「接触情報だけでは不十分だとして自国でアプリを開発した国もありますが、厚労省の目的は陽性者を追跡するのではなく、アプリを使うことで国民の行動変容を促すことにあります」(藤田さん)

 ロックダウンではなく自粛を選んだように、ユーザーの自主性に任せるアプリは有用なのか。情報化社会や監視社会を研究する慶應義塾大の大屋雄裕(たけひろ)教授(46)は情報を「前向き」と「後ろ向き」に分けて利用することが大切だと指摘する。

「感染者の行動を追跡して接触者に注意を促す後ろ向き利用には正当性がありますが、情報をもとに特定の職種が危ないといった推定を行う前向き利用は“誤爆”する危険もあります」

 だが、過去をたどるには、「もしもの可能性」を考えた前向きの収集が不可欠だ。今回のアプリでは情報を個人端末にだけ残すことで、誤爆リスクが抑えられているという。(編集部・福井しほ)

AERA 2020年6月29日号より抜粋

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