■「シーズン2」を歩みはじめた冒険者

 35年ものあいだ第一線で活躍できるアーティストなど、数えるほどしかいない。それだけで偉大で貴重な存在であるはずなのに、渡辺美里はこの35周年を自身の集大成だとは思っておらず、むしろ新しいスタートであると捉えているようだ。

 ベストアルバム『Hervest』にはふたつの新曲が収められているが、そのひとつ『ハートに火をつけて~シーズン2~ with 怒髪天』は、次のシーズンへと向かう姿勢を明確に感じさせるロックナンバーだ。そもそもタイトルからして「シーズン2」である。意志の強さを感じない方が不自然である。

 怒髪天の増子直純との息の合った掛け合い、ポップでプログレッシブなギターの重ね方、メリハリの効いたベースとドラム、印象的に挿入されるピアノやコーラスの美しさ、年を経て再会した二人の物語が始まる予感に満ちた歌詞など、いくつもの魅力がつまった「ごきげんな」楽曲に仕上がり、今後のライブの定番になる予感がする。

 この曲を、渡辺美里の楽曲のなかでもっとも若い楽曲のひとつだと感じる人もいるかもしれない。というのも、この歌、この曲には、原点回帰とは似て非なる、もう一度青春を生き直しているような息遣いがあるからだ。そうした息遣いは、自身の青春を回顧する姿勢からは生まれない。キャリアのあるアーティストが原点回帰を謳いながらしばしばやや古臭い、時代遅れな楽曲を発表してしまうのは、彼らが過去に縛られているからだろう。ではどのような姿勢がこうした息遣いを生むのかといえば、答えはちゃんと歌詞に書いてある、「続きを始めよう ドキドキする新しいストーリー」と。

 こうした純度100%の前向きな心のフレッシュさに加えて、「憂い顔も素敵だね」という絶妙なパンチラインに象徴される円熟味も特徴だ。初期衝動と洗練という、本来なかなか相容れないはずのふたつの要素が両立した楽曲だと言えるだろう。

 若いアーティストはいくらでもいるし、洗練されたアーティストもたくさんいる。しかし若さを保ち続けながら洗練されるアーティストはそれほど多くない。35周年の年にこのような楽曲を発表できるのは、彼女がこの35年間、常に自分をアップデートし続けてきた冒険者だからだろう。著書『ココロ銀河~革命の星座~』には次のような言葉がある。

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