林:確かに口約束が多いですよね。
ヤマザキ:「弁護士さんを介してください」と言ったら驚かれて、「どこの漫画家に弁護士を仲介したりエージェントを通すやつがいるか」みたいなことを言われたんですね。
林:でも、それぐらいやっていただいたら、ほかの漫画家にとってもありがたいんじゃない?
ヤマザキ:というのは私の思い込みで、漫画家さんの中には私の行為を非難した人もいたんです。「なんであんなことしてくれたのか。仕事が回ってこなくなるじゃないか」って。漫画が描けるんなら、お金なんか二の次三の次でいいんだ、と。日本の世の中では、取り決めが曖昧でも、そのまま続けていくべき仕事もあるのだと諭されたというか。
林:そうなんですか。日本って華やかに楽しそうにやってる人をたたくところありますよね。
ヤマザキ:透明な同調圧力というか、狭窄的な社会主義みたいな傾向がありますよね。
林:すごくあります。ヤマザキさんは美大卒だから、建物とか影とかをおろそかにしないで、ものすごく手が込んでますけど、アシスタント、何人ぐらい使ってるんですか。
ヤマザキ:当時は使ってないです。背景も全部私が描いて。
林:えっ、それはびっくりです。
ヤマザキ:古代ローマを描くとなると、そこそこ歴史的知識がないと描けません。それで『テルマエ』の6巻ぐらいから、大先輩の漫画家であるとり・みき氏が手伝ってくださるようになったんです。でも、あまりにもすごい背景だったんで、そのあとの『プリニウス』は共作という形にしたんです。
林:『プリニウス』はどこに連載したんでしたっけ。
ヤマザキ:「新潮」です。文芸誌の。最初は「新潮45」でやってたんですけど、本自体がなくなっちゃったので、「新潮」から「こちらでやります。これは文芸に値する漫画だと思いますから」とおっしゃっていただいて、うれしいなと思ってやりました。今は「オリンピア・キュクロス」(「グランドジャンプ」)、「リ・アルティジャーニ」(「芸術新潮」)の二つを連載しています。
>>【漫画家ヤマザキマリ 恋人養い餓死寸前、その後の結婚も…ウソみたいな本当の話】へ続く
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2020年7月3日号より抜粋