一方、血栓回収療法は発症から8時間以内で、太い血管にも有効だ。頸動脈ステント留置術と同様、足の付け根から血管内に管を通し、詰まった部分でステントを広げ、血栓を引っかけて回収する。
「血栓回収療法のあるなしで、自宅復帰率が20%違うといわれています。また、血管の開通が30分遅れると死亡率が19%増加し、回復(軽度の障害があっても日常生活は自立)する人は22%減少するというデータもあります」(同)
血栓溶解療法と血栓回収療法は、状況によって両方おこなう場合もある。
ただ実際には、時間的なことだけでなく、患者の状態や近隣の病院に治療ができる医師がいないなどさまざまな理由で、これらの治療ができないことも多い。そのような場合でも、脳梗塞がそれ以上進行しないよう予防し、脳細胞を保護して血栓が飛ぶのを防ぐなど、患者の生命を救い、後遺症をできるだけ軽減するための治療がおこなわれる。
「脳梗塞の治療は、発症直後の血栓溶解療法や血栓回収療法だけでなく、薬物による進行予防や細胞の保護、早期からのリハビリ、リスク管理や予防治療も含め、トータルで考える必要があります。失われる部分をいかに少なくし、失った機能をいかに回復させるか。そのすべてが、大切な治療なのです」(城倉医師)
脳梗塞治療の底上げを図るため、日本脳卒中学会は20年4月から、24時間365日血栓溶解療法ができる医療機関を一次脳卒中センターとして認定する方針だ。
(文・梶葉子)
≪取材協力≫
兵庫医科大学病院 脳神経外科主任教授 脳卒中センター長 吉村紳一医師
横浜市立脳卒中・神経脊椎センター副病院長 脳卒中・神経疾患センター長 脳神経内科部長 城倉 健医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より