将棋の藤井聡太七段が棋聖戦で、最年少タイトルに王手をかけた。さらに王位戦でも初戦に勝利した。その驚異的な強さについて、自らも対戦経験のある佐藤天彦九段が語った。AERA 2020年7月13日号から。
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6月28日に行われた将棋のタイトル戦の一つ、棋聖戦五番勝負第2局。藤井聡太七段(17)は、渡辺明三冠(36)に圧勝し、2連勝した。もし次局で勝てば、史上初の17歳タイトル保持者となる。
──藤井さんの勝ちぶりを、どうご覧になりましたか。
まさに圧勝でしたね。正確に相手の攻めを受けていって、中盤以降は差を大きく広げての勝利。本格的な戦いに入ってから藤井さんが放った「3一銀」という手が話題になりましたが、普通、ほとんどの棋士には「見えない手」なんですよ。そもそも考えないという類いの手だと思います。まず、選択肢として意識に浮上してこない。なんか、棋士の感覚からすると気持ち悪い形なんですよ(笑)。
それに、その前の手順の組み立てが巧妙でした。飛び道具として大切な武器のはずの飛車を、王様の頭に回して、王様の近くでの接近戦を誘発。よほど読みの精度に自信がないと指せない形です。前もって知っていても多くの棋士は選ばないでしょう。実戦の藤井さんの指し回しも、先入観に捉われず、彼の「読み」の裏づけがあって指し手を重ねていったというのが顕著でした。
──棋聖戦の第1局も名勝負でしたね。
第1局では、藤井さんが101手目で「8七香」という手を指しまして、ここが勝負の分かれ目だったと思いますね。その直前は、藤井さん側から見ると、やや形勢が良くない流れで、彼にとっては予定外の進行という局面だったんです。ですが、そこからうまく王様の周辺の守りを固めて、相手の攻めに対して着実な対応をしていった。そのことで再び形勢を揺り戻したんです。
この時点で残り時間も少なかったんですが、そんな中でも冷静に、先入観に捉われない対応をするのは、さすがだと思いましたね。予定外の進行の中でもちゃんとリカバリーできる。若手ながら、すでに円熟味を感じさせる一局だったと思います。