このあいだ、ふっと横を見ると、よめはんがいつものごとく口をあけて寝ていた(そう、よめはんは若いころからずっとそうだ。瞼(まぶた)が短いのか、目もあけているときはかなり怖い)から、ティシュペーパーを小さくちぎって丸めて口に放り込んだら、ペペッと吐き出して「ゴミ、入れたね」という。「ゴミやない。ティシュペーパーです」「ちがう。変な味がした」「そんなはずはないんやけど……」なぜかしらん、わたしはしどろもどろになる。

「マキちゃん、ピヨコってすごいわるいんやで」

 よめはんはプイと立って自分の部屋に消えた。

 ──ちょうど去年のいまごろだ。よめはんが、耳がおかしい、といいだした。「この三日ぐらいかな、音がボヨーンと水の中にいるみたいに聞こえるねん」「風邪ひいたんやろ」「そんなんとちがう」

 よめはんはぐずぐずいっていたが、車に乗せて耳鼻科に連れていった。あとで、よめはんがいうには「耳に内視鏡を入れられた。鼓膜のとこに虫がおる、暴れたら鼓膜に傷つくかもしれん、といわれて、ライトで虫を誘うたんやけど、出てこんかった」医者は虫が死んでいると判断して、虫を取り出した。直径二ミリほどの丸い虫だった。

「なんやったと思う」「分からん」「わたしには分かった。マキの粟玉や」粟玉が変色して黒くなったのを医者は甲虫と思ったらしい。「よういわんかったわ。インコの餌やて」「そら、いわんほうがよろしい」

 よめはんの英断を褒めた。

週刊朝日  2020年7月17日号

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