ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回はペットのオカメインコ、マキについて。
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毎日、午後六時をすぎると階下のキッチンから冷蔵庫を開け閉めする音や流しの水音が聞こえてきて、よめはんが夕食の準備をはじめたと分かる。三十分ほどすると皿の音がするから、わたしはオカメインコのマキに「マキ、ごはんやで」と声をかけてパソコンの電源を切る。わたしが立つと、マキが飛んできて肩にとまり、いっしょに階段をおりてダイニングへ行く。
よめはんがパスタやそうめんを茹(ゆ)でていたりするとマキは麺類が大好きだから、早よう寄越せ、とよめはんの腕にとまろうとする。「マキちゃん、あかん。熱いんやで」よめはんに追い払われて、マキはわたしの肩にもどり、腹が立つのか、耳をかじったりする。それがまた、かわいい。
よめはんとわたしがテーブルの前に座ると、マキは右に左に走りまわって皿に乗っているもの(麺類、ごはんつぶが大好物。いまのお気に入りは焼いたトウモロコシで、わたしが食べたあとの芯をかじる)を味見し、スープを飲み、茶を飲む。その合間に自分の皿のシードをつつき、豆苗や小松菜やニンジンをかじるから、マキはたいそう忙しい。
そうして、食事のあとはスイカだ。わたしが冷蔵庫からスイカを出すと、もう俎板(まないた)のそばから離れない。包丁で半切りしたとたんに飛びかかって黒いタネをむしりとり、器用に半分に割って中の白い実を食う。
この季節、マキのためにスイカを欠かすことがない。マキは緑の縞(しま)模様の丸いものが旨(うま)い食べものだと知っているから、買ってきて冷蔵庫の前にころがしていたりすると目敏(めざと)く見つけて上にとまり、これを切れ、というふうにわたしを見る。
そんなふうにして夕食が終わり、わたしは皿洗いをしてからリビングのテレビの前に行く。たいていの番組はおもしろくないから、ユーチューブでマキといっしょにロックのライブを見る。たまによめはんが隣に来ることもあるが、十分もすると眠りはじめる。