「病床数など物理的な数より、それを維持管理する看護・医療スタッフのキャパシティーが大事です。たとえば人工呼吸器が100台あっても、1人の呼吸器科医が管理できる数は決まっている。人手を含めた全体で考えるべきなのですが、スタッフが急に増えたとは思えません」

 一方、谷口さんは今回加わった二つの項目は評価する。潜在的な市中感染を把握するための「東京消防庁への発熱相談件数」については「幅広く情報を集約し、包括的に判断するという原則に合致する」、医療提供体制の逼迫度を見るための「救急患者の搬送先を見つけるのに時間を要した件数」については「非常に具体的。状況がよくつかめる」と話す。

 ただ、前出の倉持さんは問題点もあると指摘する。

「この二つが問題になるのは、『医療機関に相談できない』『病院を受診できない』という『実害』がすでに出ている状況。これをゼロにするための目標設定が本来めざすべきものです。『実害の程度を見ながら決める』では患者さんが困ります」

 数値指標を設定せず、そのときの雰囲気と状況で専門家に判断を聞いて決めるというような曖昧模糊な政策で都民をミスリードしてはいけない、と倉持さんは訴える。

「経済をもう止めるわけにはいかないならなおのこと、第2波に備えたより具体的、根本的な対策が必要。無症状感染者を早く見つけ出すためにクラスターとなりうる夜の街、保育園などの集団に定期的に抗原検査やPCR検査を行うなど、予防策の充足を図ることが急務です」

 小池都知事は30日夜、新指標について「必要な警戒をしながら感染拡大の防止と、経済社会活動との両立を図っていく」と述べた。しかし、都の感染者数は2日には5月2日以来の100人超えとなり、首都圏全体にも感染が拡大しつつある。

 感染増が止まらず医療崩壊、結局、経済も回せない──。そんな最悪のシナリオも現実味を帯びてきた。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年7月13日号より抜粋

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