小池百合子知事が突如、東京アラートや休業要請の基準となる「数値基準」を撤廃すると発表した。これを医療現場はどう捉えているのか。AERA 2020年7月13日号では医療従事者らに取材した。
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数値が消えた代わりに、今後は定期的に、専門家と都が各項目を総合的に分析するという。医療現場はどう見ているか。
「データのリスク評価は個々の数字のみで判断すべきでない。世界標準の考え方であり、最終的に専門家が包括的に判断するのは正しい方向だと思います」
こう話すのは、国立病院機構三重病院臨床研究部長で政府の新型インフルエンザ等対策有識者会議メンバーを務める谷口清州さん(60)だ。ただ数値を消したことは評価しないと言う。
「一般の方々にとっては、ブラックボックスに入ってしまったように感じるでしょう。リスクコミュニケーションの面から、透明性、信頼性を損なうことを行政はやるべきではありません」
毎日きちんとデータを示しつつ、「これがおおむね、注意すべきレベルの数値ですよ」と、ある程度の目安を示してもよかったのではと話す。
一方で、インターパーク倉持呼吸器内科院長の倉持仁さん(47)は「数値を設定しないのは、経済を回さなければというプレッシャーに都が負けている。自治体が『これ以上は危険』という指標をきちんと示さないのは無責任であり、為政者として不適任。第1波の教訓も生かせていない」と指摘する。
第1波では患者の増え方やベッドの埋まり方を予測できず、病床数を増やした頃にはピークを過ぎ、病床が空いた各病院の赤字が深刻な問題となっている。
「たとえばその教訓を生かし、第1波の患者のうち重症者数とその入院期間はどれくらいか。現状の病床キャパでどのぐらいの新規患者数なら許容できるかなどの数値を算出し、指標を示すべきだ」と倉持さんは言う。
「病床に空きがあり、医療体制が十分整っている」
これは東京アラートを出さない理由として小池都知事が繰り返し述べていたことだ。しかしそれがイコール、医療体制の充実とは言えないと谷口さんは釘を刺す。