こうした状況に陥ると、やれることは限られる。
日本のバランスシート(貸借対照表)は、国の借金に対して、国民の預金で相殺する形になっている。その手法は、高インフレを放置しつつ、通貨の価値を下落させるものだ。例えば、物価が10倍となる高インフレで、1億円の借金は実質的に1千万円に減る一方で、1億円の預金は1千万円の価値に目減りする。社会全体としては、あくまで“ゼロサムゲーム”なのだ。
もう一つは、事実上の預金封鎖だ。終戦直後に実施されたが、現行の憲法は財産権を規定しているため、実施は難しいとされる。けれども、小黒さんが唯一、合法的にできるとみるのは、民間金融機関が日銀に預けている準備預金の準備率を変えることだという。
「準備率は最大20%まで引き上げることができ、預けている準備預金を引き出せないようにするのです。事実上の預金封鎖です」
いまの準備率は1%前後(最大1.3%)だが、これを引き上げて民間金融機関からお金を吸い上げる“裏ワザ”だ。
さらに『預金封鎖に備えよ』では、こんなシミュレーションも紹介する。超過準備の大半を民間金融機関が引き出せないようにし、その利息をマイナス100%にするというものだ。政府の債務を部分的に処理してしまおうという意図だ。こうした手法によって、民間金融機関が破綻すれば、そのしわ寄せは国民の預金に及びかねない。
「いまの段階ならまだ間に合います。いまの状況を続けることはできません。財政の議論を始めないといけません」と小黒さん。
日本は2024年に、お札のデザイン刷新を予定する。足元ではマイナンバーを預金口座にひもづける議論もくすぶる。これらが結果的に、事実上の預金封鎖につながらないことを祈りたい。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日2020年7月17日号より抜粋