本当に世界の頂点を狙っていくと最後は自分との闘いになります。100%自分の力を出すことが大前提で、ミスをしたら負け。緊張した場面でふだんから練習してきたものを出すためには、五輪の決勝でやることを練習で100%できるようにする、という発想も必要になります。アテネ五輪、北京五輪の北島康介、リオ五輪の萩野公介──五輪で金メダルを取った2人は相手に勝つ前に自分に勝っていた。それがとても重要だという気がします。
なりたいと思う自分にしかなれません。日々の練習で「うまくできなかったけれどまあいいか」と思うか、「うまくできるまでやって今日を終えよう」と思うか。その違いが大きな結果の差となっていきます。
何のために泳ぐか。他人の評価を受けたいから、という理由もあるでしょう。SNSのフォロワー数、スポンサーの数、もしかしたら収入の多さが目標になるかもしれません。だけど私が続けている指導は、そうではありません。自分の限界に挑むチャレンジを続けて最高の泳ぎを目指し、最高のレースをすることが一番の楽しみであり目標です。そんなチャレンジができた経験は、競技生活を終えた後も人生の豊かな実りとして残るはずです。
コーチとしては高度な技術を追求したり、だれもができないような練習を考えたり、世界一を目指すチャレンジをしていくことが楽しい。選手の可能性を発見して広げていく。新しいものへのチャレンジはわくわくするし、さらに踏み込んでいろいろ考えていくことで指導者として成長できると思っています。(構成/本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2020年7月17日号