指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第27回は、結果を出してきた選手らが日々の練習にどのように向き合ってきたかについてつづります。
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新型コロナウイルスの感染拡大という想像もしなかった事態で東京五輪が1年延期になって、目の前の目標が急になくなった選手たちは、「なぜ自分は泳ぐのか」という問いと向き合うことになりました。
答えの手がかりをつかんだ選手は、気持ちがすっきりしています。2016年リオ五輪男子800メートルリレーで銅メダルを取ったベテランの小堀勇気は、以前にも増して練習に前向きに取り組んでいます。体力低下をいい泳ぎでカバーしようとしたり、体調管理に気を配ったり、気持ちの面で変化を感じます。
東洋大学で練習ができない時期に実家に帰っていた水泳部員の中にも、この休みを機に変わったな、と感じさせる選手がいます。男子選手の一人は、帰省したときに家業を継ぐことを決意した、と言います。気持ちの変化は、必ず泳ぎにも表れてきます。
五輪でメダルを取るためには泳ぎの技術を追求していく必要があります。
たとえば27歳でロンドン五輪の女子100メートル背泳ぎとメドレーリレーで銅メダルを取った寺川綾は、スタートとターンの技術を磨き上げていきました。スタートのスピードを生かすための水中ドルフィンキックの力の加減やターンに入るときのひざの角度など、細かい改善を重ねて記録向上につなげていきました。
ライバルに勝つために練習をするわけですが、それは常に自分の限界との闘いです。相手に勝つ前に自分が最大限の努力をして、今までできなかった技術を習得していく。五輪のメダルを取ってきた選手を見ていると、気持ちが内面に向かっていくように思います。