総務省による労働力調査5月分では、勤め先の都合や定年退職など「非自発的な離職」が前月比で7万人増となった一方で、自己都合による「自発的な離職」も4万人増となっていた。後者には、実態としては会社都合による非自発的な退職でありながら、会社側に言いくるめられ「自己都合」扱いとなっているケースが紛れ込んでいる可能性も考えられる。

 だが、軽率な同意は禁物だ。というのも、会社都合であれば失業保険給付(失業手当)はハローワークで求職の申し込みをしてから7日後(口座への入金は約1カ月後)だ。しかし、自己都合のケースは「7日+3カ月後」の入金となってしまう。加えて、自己都合のケースでは退職金が減額されることもある。

 会社側に泣きつかれて、ついついその要求を受け入れてしまうというケースも考えられるだろう。コロナ感染拡大に伴う世界的な経済活動の停滞で多くの企業がピンチに陥っているだけに、「こんな状況では解雇されても仕方がない」と思いがちな風潮もうかがえる。

■「整理解雇」に法は厳格

 しかし、その考えは間違っていると訴えるのは、日本労働弁護団常任幹事の嶋崎量(しまさきちから)弁護士だ。

「そもそも正社員の解雇は、客観的な合理性と社会通念上の相当性がなければ、無効となります(労働契約法16条)。そして、コロナショックのような経済危機を理由とするものは一般的に『整理解雇』と呼ばれ、通常の解雇よりも厳格に規制されると解釈されています」

 整理解雇とは、経営上において人員削減が必要と判断して実施する措置であり、雇われている側には何ら責任のないもの。そこで、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力を尽くしたこと、(3)解雇される者の選定方法の合理性、(4)手続きの相当性といった四つを満たさなければ認められないというのが過去の判例に基づく解釈である。

「たとえば(1)に関しては、収支や借入金、役員報酬の動向などが考慮されるとされています。会社全体の収支がさほど悪化していない、借入余力がある、役員報酬が従前通り、コロナ対策で拡張された雇用調整助成金の特例を検討・活用していないなどといったことが確認できれば、解雇が無効となる方向で考慮されます」(嶋崎弁護士)

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