落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「最年長vs.最年少」。
* * *
将棋の王位戦が話題ですな。最年長で初めてタイトルを手に入れた47歳の木村王位に対するは、最年少17歳で王位戦に挑む藤井七段。世間はかなり最年少贔屓(びいき)のようです。一方、我々の世界では47歳などペーペーもいいとこで、寄席のプログラムによっては、私(42)が最年少ということはザラ。現在、落語協会の最年長は三遊亭金馬師匠(91)。昭和4年生まれ、芸歴80年になろうかというレジェンド中のレジェンド。太平洋戦争開戦の年に12歳で落語家になってるんですよ。一体どういうこと? めちゃくちゃ複雑な事情があるか、ものすごいノーテンキなのか、どちらかでしょう。師匠とは正月の上野鈴本演芸場の第1部で毎年出番がつながっていて、金馬師匠のあとに私が高座に上がります。第1部に出演する落語家のなかでは私が最年少。ここ何年かそんなかんじのプログラムなのです。
今年のお正月のこと。昨年、師匠はご病気で寄席から遠ざかっていて、この正月が復帰戦。ご高齢な上に半年近くのブランクですから、お目にかかる前にはちょっとドキドキしました。金馬師匠、大丈夫かな、と。
杞憂でした。師匠は身長が185センチくらいになってました。長い黒髪に、褐色に焼けた肌、お召しになったタンクトップの表には○に「金」の文字。腰から下は、なんとサラブレッドでした。3メートルはある二本のツノの間には電流が走り、放電しては森を焼き尽くす。両脇腹に5本ずつ生えるトゲには猛毒を含み、右手にピストル、左手に花束、唇には火の酒、背中に人生を。嘘。いや、それくらいのハツラツっつーことです。血色サイコー。声も出てるし、なによりお正月の楽屋にいるだけで全身から醸し出すその「おめでたオーラ」が凄い。
私「あけましておめでとうございます、師匠。お元気そうでなによりです!」
金馬師匠「はい、おめでとうございます。元気かどうか、わからないけどね! 戻ってこれましたっ! カカカカっ!(笑)」