映画では最初、まだ幼い姿で登場するふたりの娘さんたち。母親にすがりついて泣いてる姿がいじらしかったが、17年間父の選挙を見つめ、手伝ってきて、今では「小川淳也の娘でございます」と投票依頼の電話かけをする姿がなんとも頼もしい。
「少しまえに大島監督を囲む会があって、ちょうど東京にいた家族も呼びました。集まった人がそれぞれ一言ずつ話をしようとなり、下の娘が『うちのお父さんが永田町にいて、人間関係に絶望せずに来られていることにお礼を言いたい』と言ったんです。映画では僕はダメ人間に描かれていると思うんですけど、娘が『万が一、父が総理大臣になったら私たちの社会が本当に良くなると思います』と言って……あるときから娘たちは父親を父としてだけじゃなく、社会を良くする道具として見ているんですね」
娘さんの話をしながら、小川さんの目はみるみる真っ赤になって、ハンカチを取り出して涙をぬぐい、声を詰まらせる。その涙は娘たちの成長の喜びか、負担をかけてきた謝罪か、政治家として認めてもらえた感謝か、それとも愚直な政治家としての生き方を貫く自分自身への奮起か。涙をぬぐいながら、さらに語った。
「昔は、若い人は『恋と革命に生きよ』というぐらい体制にチャレンジし、新しい社会を作っていくのがあたりまえでした。何故かというと“今日より明日はよくなる”と、みんなが思えた時代だったからです。僕ら世代がその境目ですけど、本当の好景気を一度も知らないで、就職は氷河期、ずっと右肩下がりできました。娘たちの世代はさらにもっと厳しく、何も分からないままでも敏感に感じ取っているんです、“明日は今日より厳しいかもしれない”と。だから保守化するんですよ。安倍さんにすがろうとする。彼らの世代的心理は、昔とはベクトルが真逆です。それを汲んでやらなきゃいけない。そのうえで吐いた言葉なんです、『お父さんが総理大臣になれば社会は良くなる。私たちの世代も明るくなる』と。我々は……それぐらい彼ら世代にプレッシャーを与え続けてるということです。今は将来世代を食いつぶしながら生きる初めての時代であり、初めての世代なんです。だから、もう、政治がのんきに有権者のみなさんに『道路を作ります、橋かけます』なんて言うのは、昔は確かにそれが幸せだったと思いますけど、過去のものにしないといけません。私たちは今の世代も大事だけれど、将来の世代も大事なんです。では一体、今、何を我慢できるのか? どこは辛抱し、どこを分かち合い、どういう社会に移行できるのか?を考えなければなりません。でも人間、我慢も辛抱もそうそうはできないので、ビジョンが必要なんです。みんながフェアと感じられる公平な社会像と、そこへの移行過程が必要で、なおかつ透明性が高くないといけない。それらを満たすこれからの政治は、おそらく今までの政治、政治家像では出来ないんです。新しい政治、政治家像が必要です。それを生み出せるのは、新たな政治家像をイメージできる有権者なんですよ。そこまでいかないと本当の変革は起きない。それが最大のチャレンジなんです」
●和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。