私たちは、ひざをぶつけたり、足首を捻挫したりしたとき、よく氷などを当ててけがしたところを冷やします。そうすれば腫れや痛みを抑えられると考えている人が、多いことでしょう。また、野球の投手が登板後、疲労した肩やひじにアイスパックの入ったベルトを巻いて、冷やしながらケアをしている姿も目にします。スポーツの現場では、けがの応急処置やスポーツ障害の予防のため、患部を冷やす「アイシング」がおこなわれています。
ですが、最近のスポーツ医科学の進歩により、アイシングがからだの回復にとって逆効果になる場合があることが指摘されています。アイシングの効果と、正しい方法について、日本スポーツ医学財団理事長の松本秀男医師に教えてもらいます。
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スポーツの活動中、打撲や骨折などの突発的なけがを負うことがあります。頭や首などの重症外傷の場合は、むやみに動かさずすぐ救急車を呼ぶべきですが、軽傷の打撲や捻挫などの場合は病院で治療してもらうまでの間に、応急処置をすることが重要です。それによって損傷部位のダメージを最小限にとどめ、早期の回復を目指すことができるからです。
その応急処置は、一般に「RICE療法」として知られています。以下の四つを基本とし、それぞれの頭文字をとって命名されています。
(1)Rest(安静)
運動をすぐにやめ、患部を動かさないようにして安静を保ちます。血液循環を抑制し、損傷部位の内出血や腫れ、血管・神経の損傷を防ぐことが目的です。
(2)Ice(冷却)
ビニール袋や氷嚢(ひょうのう)に氷を入れて、患部に当てて冷却します。冷やすことで、痛みを軽減し、血管を収縮させて炎症や出血を抑えます。
(3)Compression(圧迫)
患部を、弾性包帯などで圧迫ぎみに固定します。周囲の組織の血管を圧迫することにより、患部の内出血や腫れを防ぎます。強く圧迫しすぎると、血行障害や神経麻痺を起こすことがあるので注意しましょう。
(4)Elevation(挙上)
患部を心臓より高く上げて、けがした部位に血液がたまることを防ぎます。内出血や腫れを抑えます。