映像を見ながら装置の上を走るマウス。渡辺さんのグループが独マックスプランク研究所で行った、マウスと機械の視覚的意識の一体化に向けた実験だ(写真:渡辺さん提供)
映像を見ながら装置の上を走るマウス。渡辺さんのグループが独マックスプランク研究所で行った、マウスと機械の視覚的意識の一体化に向けた実験だ(写真:渡辺さん提供)
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AERA 2020年7月27日号より
AERA 2020年7月27日号より
ヒト脳のMRI画像に脳活動を重ね合わせたもの。脳の第一次視覚野と意識の関係を解き明かした/渡辺さんらの論文(Science,2011)から(写真:渡辺さん提供)
ヒト脳のMRI画像に脳活動を重ね合わせたもの。脳の第一次視覚野と意識の関係を解き明かした/渡辺さんらの論文(Science,2011)から(写真:渡辺さん提供)

 人類の「寿命」をめぐる常識を塗り替える可能性のある日本発の研究成果が、英科学誌ネイチャーに掲載された。その一つは、Q神経を刺激することによる「人工冬眠」だが、これは死や病気を遠ざける技術として期待はかかるものの「不老不死」を実現するものではない。そこで登場するのが「機械への意識アップロード」の研究だ。AERA 2020年7月27日号に掲載された記事で、東京大学大学院工学系研究科准教授、渡辺正峰さんの「不死のテクノロジー」に関する研究の現状について話を聞いた。

【渡辺准教授が目指す「意識のアップロード」】

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 不老不死はやはり夢か──。そう考えるのはまだ早い。実は、「不死のテクノロジー」の研究は国内外で進んでいる。そのトップを走るのが、東京大学大学院工学系研究科准教授の渡辺正峰さんだ。

 渡辺さんが取り組んでいるのは身体的な不老不死ではない。「意識を機械にアップロードし、その中で生き続ける」という技術だ。この構想実現を掲げる大学発ベンチャー「MinD in a Device」(東京都)が2018年に設立され、渡辺さんは技術顧問として参画している。

 渡辺さんのこだわりは二つ。一つは、専門家が聞いて「これならいけるかも!?」と思えるような、リアリティーのある手法であること。脳科学の専門家らを味方につければ、夢物語が夢物語ではなくなる。もう一つは「既存技術の延長線上にあり20年以内に実現可能」であること。渡辺さん自身が現役の研究者のうちに挑戦したいという。

 実現へのカギを握るのは、意識のアップロードの対象となる機械と、それと脳とを結ぶ装置、ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)の開発である。今年5月には渡辺さんが考案した「神経束断面計測型BMI」の特許が東京大学から申請された。このBMIについては後述するとして、まずは、渡辺さんの考えるアップロードの方法について順を追って説明していく。それは、大きく分けて3ステップからなる。

 まずはじめに、意識の宿る機械を用意する。意外に思うかもしれないが、人の意識をアップロードする前から、その機械は意識を備えている必要がある。なぜその必要があるのか、ライバル社の試みを例に渡辺さんは説明してくれた。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャー、Nectome社は、死後のヒトの脳の配線構造を微に入り細に入り分析し、言わば、脳の完全なコピーを機械に構築することで意識をアップロードしようとしている。しかし、渡辺さんら多くの脳科学者は、たとえ百年かけてもその実用化は難しいと考える。

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