北原みのりさん
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 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、いまの日本社会について。コロナ禍で、強烈な自己責任を押しつけられ、必死で生きていると感じる。

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 自殺予防カウンセリングをしている友人が、ここ数カ月、相談件数が増え続けているという。コロナ禍が影響していないはずはない。出口が見えず、政治による希望もみえず、事実が不透明で、ただ強烈な自己責任だけを押しつけられる空気。生と死を隔てるものの曖昧さが、かつてない力で際立っているのかもしれない。

 少し重たい気分のなかで改めて思うのは、今の日本が、地獄のような自己責任社会であること。 

 先日、私は久しぶりに飛行機に乗った。随分前から決めていたことではあったけれど、増加し続ける感染者の数をみながら躊躇はした。躊躇しながらフェイスシールドを買い、マスクを二重につけ、アルコール消毒液を瓶に小分けし、すぐに取り出せる状況で飛行機に乗った。 

 早朝の札幌行き。驚いたことにほぼ満席だった。隣席を一つ空けるなどの工夫は特にされておらず、フツーに隣に人が座っている。機内入り口でアルコール消毒シートが配られていたので、座る前に椅子や肘掛けをぬぐったりしたが、隣に20代のノーマスクの男性が座ったことで、札幌までの90分は相当のストレスだった。この人はきっと知覚過敏でマスクをつけられない人に違いない……と自身を慰めながらずっと顔を横に向けて目をつむっていた。サービスで出されるのは冷たいお茶か林檎ジュースの二択だが、遠慮した。男性はずっとケータイをいじっていたが、彼が少しでも息を大きく吐いたり、軽く咳払いをしたりするだけで胃がキュンとする。

 移動していいのか、いけないのか。その判断基準となるはずの検査を受けられない。実際の感染者数も分からない。とはいえ、国は「Go To」の実施など経済優先に舵を切ったので、この状況で「夜の街」以外の人が経済活動をしないのは自己責任のようだ。結局私たちは、個人の衛生管理のもと、個人の責任で移動し、経済活動し、迷惑かけず落ちこぼれないように必死な形相で生きていく……そんな気分だ。ちょっとひどいよ、政治家の皆さん。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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