「値上げは権利だ」。昨年末、東京電力の西沢俊夫社長の発言に怒りを覚えた人は多いだろう。東電は4月に企業向けの電気料金を一律17%値上げし、家庭用の値上げ申請もする方針だ。値上げの具体的な根拠も、納得できる経営合理化策も示さないまま、利用者の首を絞めるのか――。この東電の「暴走」に対し、東京都の猪瀬直樹副知事は、いち早くファイティングポーズをとった。

 都は年に83万キロワットの電力を東電から買っている大口需要者であると同時に、東電の株式を2.7%保有する第3位の株主だ。猪瀬氏は値上げの動きが出た昨年12月、何度も東電に資産売却計画などの開示を求めた。だが、出てこない。業を煮やし、都職員に東電の子会社の現状を調べさせた。

 猪瀬氏に指示を受けた都職員は、都内にある24社について、登記簿などで不動産情報を調べ、現地にも足を運んで想定賃料を割り出した。17社が都心の千代田、中央、港、渋谷区にあり、24社の年間賃料の合計は34億円。都の試算では、都心の17社を品川区へ移転し、整理・統合で半減すれば、賃料で20億円が削減できる。加えて自社ビル2棟と所有権を持つビル1棟を売却すれば78億円で、合計100億円が捻出できるという。

 猪瀬氏が言う。

「氷山の一角だけで100億円出てくるとわかった。まだまだ『埋蔵金』は出てくるに違いない」

 4月からの値上げで大きな打撃をこうむるのが、電力消費の多い中小企業だ。都内の経営コンサルタントは「自殺に追い込まれたり、コスト削減をうたった悪徳業者にだまされたりする中小企業が出てくるだろう」と最悪のケースまでも想定する。

 猪瀬氏も、こう語る。「ズルズル値上げを許せば、家庭用の値上げまでいってしまう。最初が肝心だ。利用者の代表として、東京都がケジメをつけさせる」。

※週刊朝日2012年2月24日号