現在のにぎり寿司の原型が江戸時代に完成されたことは、以前にもこのコラムで書きましたので、覚えていらっしゃる方もいると思います。
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当時のにぎり寿司は、現在の3倍から4倍の大きさで、おにぎりサイズだったこと、あまりに大きすぎて食べにくかったため、半分に切って出したのが、現在お寿司が2貫ずつ提供されることが多い理由といわれていることなどです。
当時はもちろん冷蔵庫などなかったので、魚を生のままで出すのは傷みやすくリスクが高かったため、コハダのように酢で締めたり、アナゴのように煮たり、マグロのように漬けにしたりと、なんらかの手間をかけていました。今でも、江戸前のお寿司をウリにしているお店では、こういった一手間をかけることにこだわっているお店も多いようです。
7~8月の今のシーズンだけ食べられる江戸前寿司の人気メニューに、「シンコ」というものがあります。「シンコ」とは、コハダ(コノシロ)の稚魚のことで、孵化して4カ月程度の体長が4センチから6センチ程度のものをいいます。初物を好む江戸の人々にも人気のネタのひとつでした。
このシンコ、稚魚と侮るなかれ、コハダが1キロあたり千円から2千円程度なのに対して、シンコはその数十倍の、1キロあたり数万円で取引されることもある超高級魚なんです。
シンコは職人さんにとっても腕を問われるネタのひとつで、小さくて柔らかい身を傷めず1匹ずつウロコを丁寧にとり、酢で締める際も、程よい味わいと柔らかさを出すためには、長年の経験と腕が必要になってきます。
そうして絶妙に締められたシンコを一貫に3~4匹乗せたお寿司は、口の中でとろけるような柔らかさとシンコ特有の爽やかな風味が口いっぱいに広がって、夏の到来を感じさせてくれます。
もう一つ江戸時代のお寿司の特徴は、現在の主流となっている「米酢」ではなく、お酒を絞った残りの酒粕から作った「赤酢」を使っていること。
当時はお米が貴重だったために、安価で手に入りやすい赤酢が一般的だったんです。
江戸の人々にとってお寿司は、普段の生活とともにあるとても身近な食べ物でした。そうしたこともあって、江戸時代の庶民の生活を描いた浮世絵にも、人々がお寿司を食べているシーンが描かれたものが多くあります。
7月15日から9月13日まで、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されている、「おいしい浮世絵展」では、そうしたお寿司をはじめとする江戸時代の食風景が描かれた浮世絵が数多く展示されています。機会があればぜひ一度でも足を運んでみてください。くら寿司が特別協賛させていただいています。
○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2019年11月から、執行役員 広報宣伝IR本部 本部長
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