例えば「食」は旅の醍醐味のひとつです。青森には「大鰐温泉もやし」という、350年以上前から栽培されてきた津軽伝統野菜があります。シャキシャキとした歯ごたえで長さも30センチ程度と長いため、県外の方には珍しがっていただけるのですが、地元の人はみんな知っている。だから「驚き」を提供できないのです。そこで私たちはマイクロツーリズムを成功させるため、調理法などを工夫し、地元の方々に新たな提案をしています。
面倒なことと思われるかもしれません。でも私は、これを成功させると大きな成果を得ることができると気づいたのです。地元住民の方々の、地元へのプライドです。
もともと星野リゾートでは、それぞれの地のスタッフが、食や物販などを通じて、地元の魅力をお客さまに発信していました。日本には各地に陶芸家や木工家の方がお住まいなので、地元の作家さんの作品を使ったりしていました。でも、そもそも観光業だけが頑張っていても観光はうまく行かない。県外や海外からの観光客に対し、プライドをもって魅力を説明するのは本来、地元住民の方々なのです。
誰もが観光大使に マイクロツーリズムで星野リゾートが担う役割とは
自分が住む場所の魅力を知ることは、地域の観光力アップにもつながると思います。例えば旅先で知り合った人と会話する際に、今までは出身地名だけで終わっていたのを、これからは地元のおいしいものやすてきな場所についても語れたら、誰でも観光大使になれる。こういう交流が生まれると、観光産業が事業者だけのものではなくて、みんなが参加できて楽しめるものに変わっていくはずです。
私たちは地元の方々に、地元の魅力を再発見いただいてプライドを取り戻していただく。今までは日本の観光業において、この部分が足りなかったのではないかと感じます。そして地域の新たな魅力を発見するためのプレゼンテーションを担うのが、マイクロツーリズムにおける私たちの役割の一つだと思っています。
(構成:カスタム出版部)