臨床試験が順調に進んだ場合、最終結果が出るのは来年早々になるとみられる。生命科学インスティテュートの木曽誠一社長は「2020年度中の申請をめざしたい」と意気込む。

 Muse細胞の存在が明らかになったのは07年。出澤教授は、当時を振り返る。

「実験中に共同研究者から電話がかかってきて、『飲みに行こう』と。それで、実験中の細胞をあわてて培養液に入れた後、出かけました」

 翌日、実験室で培養皿を見て、頭が真っ白になった。ピンク色をしているはずの培養液が、酸性を示す黄色になっていたからだ。「そこで気づいたのです。培養液と間違えて消化酵素を入れてしまったんだ、と」

 だが、それを“失敗作”として捨てずに顕微鏡で観察したところ、生き残っていた細胞を発見。培養すると、万能細胞と似たものが現れた。その後、骨髄や血液などいろいろな場所にあり、ダメージを受けた組織を修復するなど、いくつかの能力が確認されたという。

 その一つが、「遊走・集積能力」だ。

「Muse細胞は常に血液中をめぐっていて、組織がダメージを受けたときに細胞膜から放出される『S1P(リン脂質の一種)』という“警告シグナル”をキャッチすると、その組織の周辺に自発的に集まってくるのです」(出澤教授)

 やがて、ダメージを受けた組織の細胞になりかわり、その細胞として働き始める。これが二つ目の能力、専門的には「自発的分化能」と呼ぶ。

「Muse細胞には、からだのどの細胞にも変身できる能力が備わっています。脳梗塞でいえば、血管が詰まって血流が滞ることで壊死する脳神経細胞になりかわるだけでなく、その周囲の血管も再生することが確かめられています」(同)

 実際、脳梗塞におけるMuse細胞の有効性をみる動物実験では、Muse細胞が脳内のダメージを受けた場所で脳神経細胞に変わり、その先端をジワジワと脊髄内にまで伸ばしていく様子が明らかになったという。先の臨床試験では、脳梗塞を発症して2~4週間経ち、後遺症が残った被験者に対し、Muse細胞の製剤を点滴で1回投与。本物の薬と偽薬(プラセボ)で結果を比べる。このように、点滴で治療できることも魅力だ。

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