「重度の知的や精神障害の場合、だれが親かさえ認識できない子もいる。でも、その親が同意すれば、不妊手術や投薬をしてくれる医師はいるのです。西日本の障害者支援施設にいる私の息子も、『精神安定剤』と称して性欲を減退させる薬を与えられています」
◆むき出しの性に恐怖感じ"隔離"◆
ススムさんが施設に移ったのは19年前だ。母は嗚咽交じりに理由を打ち明けた。
「ススムは18歳くらいのころから、テレビで女性の水着姿などが流れると、大声をあげて走り回るようになったんです。そのときは、ズボンの上からでも勃起していることが分かりました。まだ子どもだと思っていたのでショックでした」
その数年後、また息子に変化が訪れた。
「22、23歳になると、興奮して私に抱きつくようになったんです。どうしていいか分からず、必死で逃げました。次第に近所の奥さんにも抱きつき、外でズボンを下ろすようになり、困った末に施設に入れました。施設では、精神安定剤の名目で性欲の抑制に効果がある薬を与えると言われ、私は同意しました。身を守るために息子を手放し、性欲を奪う書類にサインをしたひどい母親なんです」
障害者の性はどうケアすればいいのか。厚生労働省に尋ねてみたが、「具体的に検討したことはない」(障害福祉課)という回答が返ってきた。
そうした中で近年注目を集めるのが、障害者専用のデリバリーヘルス(派遣型風俗)や、ボランティアによる性的介助だ。障害者割引を適用する出張ホストや、個人的に障害者に無償でセックスを行う人など、さまざまな種類がある。
障害者の「射精介助」を介護保険のメニューに取り入れるべく、活動しているホワイトハンズ(本部・新潟市)の坂爪真吾代表はこう話す。
「風俗店としてではなく、ケアの一環として射精介助をしたいと考え、団体を作りました。当初はNPO法人化しようと思っていたのですが認証が下りず、性風俗業の届け出をして運営しています」
オランダでは障害者向けの性風俗に自治体の助成制度があり、スウェーデンでは介護の一環として、障害者が自慰行為をするために補助具をつけたり、セックスする際に服を脱がせたりすることが認められている。だが、日本では性介助は制度化されていないので、不要な法的リスクを避けて事業を行うには、性風俗業の届け出をするしかなかったのだと坂爪さんは言う。
ホワイトハンズが射精介助の対象としているのは、「医学的には問題なく射精を行うことができる身体状況にあるが、身体障害のために自力で射精行為を行うことが物理的に困難な重度身体障害者」。つまり、脳性まひの身体障害者、神経難病や筋疾患の患者などに限られ、知的障害者や精神障害者は対象にしていない。