新種は研究が進んでいくと実は既に知られている種と同種だった、ということが結構起きたりする。私も本書を読むまであまりイメージがなかったのだが、新種(厳密に言うと学名)はあくまで研究者の提案、仮説なのだ。仮説なのだから当然間違っていることもあり、新種と既知種が同種だった場合は、その生物の学名を再検討しなければならない(つまり新種とした生物の名前が変わる)。学名はころころ変わることもあるが、何度も再検討され、よりふさわしい学名に洗練されていくことは客観性が高まる意味で重要である。
とはいえ、何でもかんでも新種として発表できるわけではなく、学会発表、個人のウェブサイト、適切でない雑誌などで新種を名付けて発表しても(有名人が発表して世間的に話題になったとしても)、科学界はそれを新種として受け入れない。新種とされる種の形態やDNAを調べ、その種の標本を博物館などに登録し、関連する分類群の学名・文献情報を整理し、他の科学者に査読される科学雑誌で公表されなければ、それが本当に新種だったとしても、名前のない未知種としてしか認知されない。新種発表までの道のりはなかなか大変なのである。
■分類学者の就職先を増やす重要性
分類学者は大変な思いをして新種を公表しているが、地球上にどのくらいの未知の生物がいるのかについては、研究者によって意見が大きく異なる。つまり誰もよくわからない。未知の種を発見する眼が足りないのだ。
本書ではサラッと書いているが、分類学者が不足しているのは、単純に就職先が非常に少ないからだ。せっかく大学院で特定の分類群を正確に同定する眼を養っても、それで生活できなければ他の仕事をするしかない。分類学者の就職先を増やすことは早急の課題と訴えたい。何故なら、未知種の発見の数だけ、上述したように、我々の娯楽や知識や暮らしを豊かにする「可能性」も増えるからだ。
■SNSの活用と市民科学者の協力
一人の分類学者ができることはそんなに多くはない。しかし、私も本書も分類学は今後発展してゆくと予期している。現在はスマホなどでどこでも生物の写真を撮りやすくなり、SNSで情報を共有・拡散しやすくなった。これをうまく活用すれば分類学者がフィールドに行けなくとも、世界中から情報を集めることが可能だ。また一般の人に最新の同定方法を教え、市民科学者(いわゆるアマチュア研究家)として協力してもらうことで、情報の精度を高めることもできる。多くの眼をつくることで、分類学の発展スピードを加速させていけるのだ。
もし読者の中で生物の分類に興味が湧いた方は、是非一度本書を手に取って読んで欲しい。
【主な参考文献】岡西政典.2020.新種の発見:見つけ、名づけ、系統づける動物分類学.中公新書,東京,252pp.