「『武漢ウイルス』と何度も発言していたのは麻生太郎副総理兼財務相で、これはトランプ米大統領が『中国ウイルス』といっていた影響もありますが、日本国内においてはリップサービスになると考えられます。誰に対してかというと、保守支持層です。政権与党を支持する彼らは、もともと嫌韓・嫌中の傾向が強いからです。『東京問題』にも同じことがいえます。国会議員は地方に地盤があることが多いですから、そこに向けて『自分たちの地域は安全だ』というリップサービスをしたいという潜在的な欲望があるのでしょう」
これは何も日本だけで発生している問題ではなかった。
「WHOは、コミュニケーションにおける『ラベリング』と分断や差別を促進する言説(スティグマ)を避けるように発信しています。分断や差別によって感染者に過剰な負担がかると、人々は感染した事実を隠すようになります。そうなれば、コロナ対策を大きく妨げることになることを危惧してのことです」
「ウィズコロナ」「アフターコロナ」などといわれるが、いまの時点で明るい未来を描ける人は多くないに違いない。『コロナ危機の社会学』で解き明かされている、日本が現在抱えている問題を見るにつけても、宿題が多く残されたと感じる。しかし西田さんは「希望がまったくないわけではない」という。
「中国など、アジア諸国との関係性を変えていける可能性がありますね。身近なところでその例をあげると、留学生です。日本のコロナ対策が奏功し、人々が再び国家間を往き来できるようになれば、今以上にアジア圏からの留学生が増え、経済面でも大きなメリットがあるでしょう。この間、アメリカも欧州もアジア人差別が横行し、欧米離れは強くなるような気がします。その受け皿になることができるかどうかが問われます」
これまでそうした留学生は、アメリカや欧州にわたっていた。しかし新型コロナ感染拡大にともない中国人のみならずアジア人への差別が拡大し、さらにトランプ米大統領が一時期、オンラインで授業を行う大学や高校に籍を置く留学生にはビザを発給しないという規制を設けようとしていたことも、アメリカへの留学離れに拍車をかける可能性がある(注1)。
「また、富裕層が多い中国沿岸部やシンガポールは別として、アジア圏全体からみれば日本の価値はまだまだ高いといえます。特に中流層ですね。中国には211工程、985工程といわれる、政府が権威を認定し予算を優先的に配分する“重点大学”がありますが、世界大学ランキングでみると、日本の研究大学は総じてここに含まれる大学より上位にランクインしています」